第60話 君は風水士の才能がある

「君は風水士の才能があるな」


『な、なんだいきなり!?』


 朝飯を並んで食いながら、ゴブリンの少年に話しかけると、彼はひどく驚いたようである。

 これが人間の一行なら彼は殺されていただろう。

 だが、これはドワーフの一行だ。


 ドワーフからすると、ゴブリンは自分たちと背丈が変わらない、緑色の肌の人々にしか見えない。

 不倶戴天の敵であるオークは滅ぼしたらしいしな。


 今日も向こうで、アディ姫がエリカにドワーフの勇ましい歴史を語っている。


「タリホーというのは、オークを狩る時に出す掛け声なのです! だから勇ましい言葉なのですよー!! わっちらドワーフは、飛空艇と戦車とガンでオークを狩り尽くしました! 相手の方が肉体的にも魔法の才能にも優れていましたが、わっちらには魔法よりも射程が長くて誰でも簡単に使えるガンと、魔法でも壊れない戦車と、魔法よりも早く高く跳ぶ飛空艇があったですからね!」


「凄いな! 魔法の力を技術で超えたのか!」


「それがドワーフですよー!」


「ドワーフ凄いな!」


 エリカがあまりにも素直に褒めるので、ドワーフ一同、ニッコニコになっている。


「なんて気持ちのいい連中だろうな!」


「こりゃあ仲間でいる間は徹底的にもてなさないとな!」


「お嬢ちゃん、俺の分も食え食え!!」


 エリカがモテモテだ。


『おいおい、なんでそっぽ向いてるんだ?』


「ちょっとエリカに悪い虫がつかないか心配で……」


『種族が違うじゃん! んで、なんだよ。俺に何の用なんだよ』


「おお、そうそう。君は才能があるはずだから、俺が色々教えよう」


『はずってなんだよ』


 こいつ、細かいことに気付くな。

 頭いいぞ。


「君は俺の仲間たちよりも絶対頭いいな。んじゃあ飯食ったら道を歩きながら教えよう。君は風水士っていう地形を利用する戦い方の才能があってな」


『は!? なんでそんなこと分かんの!?』


 これは少年も真顔で聞いてきた。

 ちなみにゴブリン、ロード種しか名前はなくて、しかも成人するまでは全員名無しらしい。

 ジャガラのみ、自称してるとか。


 なので、ロード種の少年には名前がない。


「君を風水士と名付ける」


『それ職業じゃねえの?』


「名は体を表す……。名乗っておくとなんとなくそれっぽくなるのだ」


 ドワーフの朝食である、なんかパリパリの生地で巻いた肉と野菜に甘辛いソースが掛かったやつを食い切る。

 俺は少年を連れ、ドワーフ一行の前に出た。


「見て覚えるんだぞ。これがランドシャークだ」


『うおーっ!? 地面が魚みたいな形になって飛び上がった!!』


「やってみろ」


『……ど、どうやるんだ』


「地形:ランドシャークとか言ってみろ。あと、なんか気合を入れて地面を動かそうとしてみろ」


『なんだよそれ!? ち……地形:ランドシャーク!! うおおお!! 動けえええええ!!』


 おお、素直素直。

 そして、少年が叫ぶと同時に、地面がゴゴゴゴゴ、と揺れ動いた。

 ピョイーンと地面から跳ねる、土の小魚一匹。


『あっ……』


 少年風水士がしょんぼりした。


「すげえ!」


 俺は感心し、めちゃくちゃ拍手する。

 ドワーフたちも、「オー」「すごい」「才能」とかどよめいている。


『いや、今のでいいのかよ……』


「いきなりの初挑戦で成功する辺り、とんでもないぞ。君は天才かなにかだな」


『だけど、お前……いや、あんたはもっと凄いじゃん』


「俺は覚えた瞬間にフルスペックで使えるんで」


『ヤバいヤツじゃん……』


「俺は敵の技を喰らって覚えるから、すぐさま使えた上で威力を発揮しないと死ぬんだぞ。練習できるだけ君はまだまだ幸せなのだ」


『マジかよ……』


 だが、そこから風水士の少年は素直になったのだった。

 彼に才能があるというのは間違いなかったようで、少しずつ地形の技をモノにしていった。


 これって絶対、俺と出会わなかったら才能が開花しなかったな。

 彼が風水士だと見込んで色々教えたら、その通りだったわけだ。


「教える技は、地形っぽいの三つだけな。ランドシャーク、ワールウインド、渦潮カッター。後は自分で研究して増やしてやってくれ」


『そっから先は放任かよ』


「俺が全部教えたら、君は俺と同じになっちゃうだろ。それは違うだろ。だから、俺は基礎しか教えないぞ」


「ドルマ殿、なんか弟子も二人目になると堂に入ってくるでござるなあ」


 ホムラが横で感心している。

 忍術よりも投げるほうが強いからと、せっかく学んだ忍術を一切使わない忍者。

 忍術の師匠はきっと嘆いていることであろう。


「おーいドルマー。遠くに騎士たちが守りを固めているのが見えたらしい。戦だぞ、戦。風車の騎士はいつ風車の魔王になるんだろうな! 早くぶっ倒したくて私はうずうずしてるぞ!」


「おお、エリカが興奮している。ステイステイ。まだ相手は人間だからな……。あ。人間でも構わないんだったっけ? そっかー」


「ドルマ殿がエリカ殿の思考を読み取っているでござるなあ」


『なんだよこいつら』


 だがこの様子を見て、アディ姫は「頼もしい!!」と大変満足の様子。

 

「秘宝が悪用されてしまわぬうちに、突撃するのですー!! 秘宝を取り戻せー!!」


 タリホー!! と鬨の声ときのこえをあげるドワーフ一同。

 これは勢いが止まるまい。


「少年、いきなり実戦だぞ」


『マジかよ……!!』


 ちょっと引いている、少年風水士なのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る