第三章
第40話 ゴブリン王国、動く
エリカの田舎ドレス姿が思いの外かわいくて、あっ、この人かなり美少女だったんじゃん! と衝撃を受けたり、そんな美少女が敵に真っ先に突っ込んで、血みどろの殴り合いやってるんだよな、と思ったり、「婿殿惚れ直しましたかな」「基本的に俺はエリカの全てを肯定するので」「ラブラブー!」などというやり取りをしたら、エリカが真っ赤になりながら怒って、俺を追い回したりなどした。
そんなエリカの実家での滞在は、一週間ほどに及んだのだ。
何せ、勝手に食べ物が出てくる。
上げ膳据え膳素晴らしい。
お金かからないのだ。
このままここに骨を埋めて、実家のように農業を勤しむのもいいなあ……などと俺が考えていた矢先である。
エリカの祖父であるトニーが、鳩を腕に載せてやって来た。
「青魔道士殿」
「どうしたんだ?」
「レーナから連絡がありましてな」
「あっ、レーナ生きてたの」
「あれは根っからの放浪者みたいなものなので、いい年になってもずっと旅をして回っているんですよ。で、そのレーナからの連絡で、ゴブリン王国が動き出したと」
「ゴブリン王国が!」
それは、俺が最初の冒険で挑んだゴブリン砦の、大元締めみたいなものなのだ。
そもそもゴブリン砦は幾つもあり、それぞれが別の国の中にある。
幾つかの国の国境が接するところに、ゴブリン王国は存在していた。
どうやら、俺が生まれる前からずっとゴブリン王国だったらしい。
人間たちとはちょこちょこ抗争を繰り広げていたのだが、ついに彼らは動き出したと。
「砦が攻め落とされたことで危機感を持ったようですな。砦を落としたのは青魔道士殿とエリカでしょう」
「そういえばそうだなあ」
「エリカもそろそろ退屈しています。閉じ込められた姫君を助け出すのも、騎士の役割ですぞ」
トニーがいたずらっぽく言った。
「うまいこと言うなあ。騎士を目指すエリカがお姫様か。じゃあ連れ出すわ」
そういうことになったのだった。
どういうわけか、俺とエリカは同じ部屋になっているのである。
「エリカ、脱走しよう」
「むむっ! いいのか、ドルマ! ずっと、『毎日タダメシ食べられて幸せ』って言ってたのに……」
「まさかエリカ、俺の事を思ってずっと残ってくれていたのか」
「ドルマには世話になってるからな!」
「なんというできた人だろうか」
俺は感動した。
必ずやエリカをまた、野に解き放たねばならぬと誓ったのだ。
と、いうことで。
俺たちはそのままエリカの実家を旅立った。
アベルが遠くからこっちを眺めているが、心底興味なさそうだ。
あいつは仲間意識とか、そういうのは薄そうだ。
「ひゃっほー! 外の世界だー! 二度と実家なんか帰るもんかー!!」
真夜中に大声を出すエリカだ。
そんなに解放感すごいのかあ。
こんな時間では馬車もない。
夜道を二人で、てくてく歩いて行くことにする。
目指すは俺たちの拠点、商業都市ポータル。
また仕事をして日銭を稼ぐ日々が始まるのだなあ。
それに、ゴブリン王国とやり合うことになれば、きっと仕事は増えていることだろう。
よりお金を稼ぎやすくなっていると前向きに考えよう。
夜の街道を行く者は少ない。
なぜなら、暗くて先が見えないし、普段は街道によりつかないモンスターも出現する体。
『ホォォォーッ……』
フクロウの大きな声が聞こえた。
近くにフクロウが?
そう思ったら、街道のちょっと先で、ランランと輝く目がある。
「フクロウかな。それにしては、高いところで留まってるけど」
「街道に止まれる枝なんかないもんな。じゃああれ、モンスターじゃないか?」
「そうか! フクロウにしては大きいものな!」
エリカは即断すると、グレイブソードを抜いた。
既に臨戦態勢だ。
俺もまた、手斧を用意する。
「この暗さだと、ミサイルは危なそうだしな。よし、じゃあ接近して仕留めるか」
俺たちが武器を構え、悠然と歩いてくる。
フクロウは、こちらを敵だと認めたようだ。
『ホォォォーウッ!』
一声高らかに鳴くと、そいつは姿を現した。
頭ばかりがフクロウのようで、体は闇色の毛皮を持つクマだ。
でかい。
オウルベアというモンスターだ。
詳しいことは知らない。
レーナがいればなあ。
こっちだとレーナは、エリカのお婆ちゃんなんだよな。
そっか、血が繋がっているのかあ。
「ほいゴブリンパンチ」
『ホオオーッ!?』
オウルベアのクマパンチを迎え撃つ、手斧ゴブリンパンチ。
気はそぞろでも、青魔法の力は裏切らないのだ。
俺がよそ見しながら拮抗してくるので、オウルベアはちょっと焦ったらしい。
その間に、エリカが懐まで入り込んでいる。
「とああっ!!」
そして全力で叩き込む、グレイブソードの一撃。
どろ魔人の頭を割るような破壊力なので、たかがクマであるオウルベアはひとたまりもない。
本来ならば強靭な毛皮と筋肉に覆われているはずの体が、ざっくり切り裂かれた。
『ホオオッ!?』
うんうん、普通の人間の腕力じゃないよな。
「よし、至近距離ランドシャーク!」
これでオウルベアの足場を崩す。
転倒したオウルベアの上に、エリカが馬乗りになった。
振り上げられたグレイブソードは、一撃でモンスターの頭を真っ二つに叩き割ったのだった。
「いやあ! 私たちのコンビネーションは最強だな!」
「だなー。エリカがめちゃくちゃ強くなってて驚いた」
「なんだかな、戦いに入ると体が凄く軽くなるんだ! だけどドルマも色々な状況に合わせた技を使えるようになってるじゃないか」
「おう。ちょっと技の取捨選択が面倒くさいけどな」
オウルベアはクマなので、内蔵とか腕が高く売れる。
毛皮も売れるけど、この場で解体するのは面倒だ。
ということで、必要な部分だけもらっていくことにした。
周囲に獣が集まってくる気配がある。
俺たちのおこぼれを狙って、オオカミがやって来たのだろう。
後は彼らが掃除してくれる。
俺たちは再び、夜の街道を歩き始めるのだった。
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