第37話 どろ魔人、地上へ

 迷宮最下層。

 レーナの見破る能力のお陰で、あらゆる罠を突破した俺たちは、楽々到達した。


 本当に罠が多い迷宮だった。

 誰が仕掛けたんだろうな。


 最下層では、灰色のドロドロしたものが渦巻いていた。

 その中心に顔があり、口からモンスターを生み出している。


「どろ魔人だ! あいつがこの辺りにモンスターを生み出している元凶だ! は、初めて見た……。なんておぞましいやつだ!」


 トニーが震える指先で、迷宮の主を指し示す。

 すると、どろ魔人はこちらに気付いたようだった。


『ゲッゲッゲッゲッゲ……。まさか迷宮の最奥まで下ってくる輩がいるとはな。俺様はどろ魔人。土のモンスターを生み出し続ける存在よ』


「ミサーイル」


『ウグワーッ!!』


 その辺の瓦礫をミサイルにしてぶっ放す俺である。

 どろ魔人はでかいから、狙いが外れなくていいなあ。


「よーし、戦いだ!」


「やれやれ。だが確かにモンスターの口上を聞いてやる義理はない」


「チェックチェーック! どろ魔人の上に迂闊に乗ると足を取られるわよ! 足場を確保してから戦うのよー!」


『お、おのれ貴様らーっ!! 恐怖という感情をどこかに置き忘れて来たかこの異常者どもめーっ!!』


「渦潮カッター!!」


『ウグワーッ!!』


「す、すげえ。どろ魔人を喋ってる間に攻撃しまくってる! こんなんアリなのか!」


「トニー。俺たちはな。退屈な話を延々と聞いてるのが苦手なんだ」


 俺は騎士見習いに優しく解説してやった後、横で待機していたエリカを抱え、ジャンプした。


「よし、ドルマ! どろ魔人の頭の上に落としてくれ!」


「おう! 行け、エリカ!」


「行くぞ!」


 最下層の天井は高い。

 お陰で、ジャンプでどろ魔人頭上まで飛ぶことができた。

 そこからエリカを落下させる。


「うおおー! ぶった切る!」


 エリカがグレイブソードを思い切り振りかぶり……。


『ぬおーっ! モンスターよ、俺様を守れーっ!!』


 どろ魔人が口から吐き出した、牛頭の巨人を叩き切りながら、魔人の顔面を深く切り裂いた。


『ウグワーッ!! 許さん、許さんぞーっ! ぬわーっ!!』


 さらにアベルが、エリカの隣に降り立ちながら槍で深く刺し貫く。


『ウグワワーッ! こ、こんな地下にいられるか! 俺様は地上で直接人間どもを滅ぼしてくれるわーっ!!』


 ダメージを受けたどろ魔人、キレる!

 巨体が起き上がり、迷宮を破壊してどんどんと上に登っていく。


 俺は元のところまで戻り、トニーとレーナをキャッチした。


「うおわーっ! な、なにするんだー!!」


「僕を連れてくのね!? 生き埋めはいやだものねー。優しくね……!!」


「レーナは俺の心を乱すような事を言わないように。それ、ジャンプ!」


 二人を抱えていると流石に重いが、ジャンプには関係ない。

 どろ魔人が天井を掘り進んだ穴を、跳躍しながら追いかけるのだ。


 すぐに光が辺りを包み込み、そこが地上だと分かるようになった。


『ぬわーっ! 許さん、許さんぞ迷宮に踏み込んできたよく分からない者たちめ! 人間を壊滅させる!』


「俺たちへの怒りから全ての人間へ怒りを向けるようになったぞ」


「お、おい! まずいんじゃないか!」


 トニーが慌てている。

 だがよく考えて欲しい。


「そもそもモンスターを生み出す危険な魔人だったから、いつかは排除しなくちゃいけなかっただろ。なら人間を恨まれたところで、害を成すことに変わりはない。今ぶっ倒せばいいんだ。行け、トニー」


「えっ!? 行けって……うわああああ!!」


 トニーミサイルだ。

 人間は技の対象にはならないがな。

 トニーは叫びながら剣を抜き、どろ魔人の胴体目掛けて落っこちた。

 そして剣は深々と突き刺さる。


『ウグワーッ!?』


 人間はミサイルにならないが、トニーの剣はミサイルになるんだよな。

 刃先がどろ魔人の体内で爆発した。


「ウグワー!?」


 トニーも吹っ飛んでいった。

 まあ無事だろう。


 エリカはどろ魔人の頭に取り付いて、ガンガンとグレイブソードで殴る。

 アベルは縦横無尽に飛び回りながら、槍を叩きつけ続けている。

 いい勝負ではないか。


 そう思っていたら、周囲が騒がしくなってきた。

 どこに隠れていたのか、それなりの数の軍隊が出現したのだ。


「ど、どろ魔人なのか!?」


「どうして地上に……!」


「戦っているのは誰なんだ!」


「俺たちか? 問われて名乗るのもアレだが、エリカが喜びそうなんで名乗る」


 俺は軍隊へ振り返った。


「俺たちはフォンテインナイツ。故あってどろ魔人を倒しに来た」


「フォンテインナイツ!? 騎士フォンテインということか!?」


 呆然としながら戦いを見守る軍隊。

 彼らが参戦すると、こちらが自由に動けなくなる。

 それに、どれだけ強いのか分からないが、集団だとどうしてもどろ魔人にやられて死ぬ者が出るだろう。


 そういうのは面倒だ。


「ちょっと待ってろ。おーい、エリカ! アベル! 一気にぶっ放すぞ!」


 俺は二人に向かって叫んだ。


「レーナ、どろ魔人の弱点は?」


「炎だわね! さっき君が撃ってた爆発する飛び道具、効いてるわよ!」


「よしよし。じゃあ、こいつで攻撃だ。保存食展開。干し肉ミサイル! ナッツミサイル! ビスケットミサイル!」


「僕の保存食も使う?」


「使わせてもらう……。あっ、これレーズンじゃん。よしレーズンミサイル!!」


 ばらまかれた保存食の全てがミサイルになり、どろ魔人へと突き刺さる。


『ウグワワーッ!?』


 全身に爆発を起こしながら、どろ魔人が絶叫した。

 いやあ、でかいと当たりやすくていい。


「これが騎士フォンテインの戦い……!? 我々は神話を目撃しているのか……!」


 後ろで、軍隊のリーダーみたいな人がかっこいいことを言うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る