第35話 学者発見! どろ魔人の迷宮へ

 どろ魔人の住み処へは数日掛かった。

 ここまで行く乗合馬車なんか当然無い。

 なぜなら、どろ魔人は地下迷宮を作り出して住んでおり、そこからはどんどん危険なモンスターが溢れ出してくるからだ。


「よし、くさい息で一掃だな」


「それはよくない」


 俺の冴えたアイディアを、エリカが止めてきた。


「どうしてなんだ。楽できるじゃないか」


「フォンテインがどろ魔人をくさい息で簡単にやっつけたっていう伝説になっているか? なってないだろう。多分、くさい息で簡単にやれないようになっているんだ」


「そういうものなのか……! 伝説は示唆に富んでいるな」


 俺たちの会話が理解できないトニーは、横で聞きながら首を傾げている。


「理解せずともいい。奴らに近づくと頭がおかしくなるぞ」


 アベルがひどい物言いをした。

 とりあえず、モンスターがわらわらいるところに到着。


 風上からくさい息を吐いて駆除しておくことにする。


 フルタイムで息を吐くと、視界に立って動いているモンスターがいなくなった。


「な……なんだその技!! とんでもない……」


「ドルマの青魔法だぞ。彼は青魔道士なんだ!」


「青魔道士すげえ……。青魔道士殿! 俺にもその技を教えてくれ!」


 トニーがキラキラした目でこちらを見てきた。


「トニー。こいつは俺もどうして使えているのかさっぱり分からない力なのだ。だから教えることはできない……」


「そ、そんなあ」


「理解できん」


「そう言うアベルだって特殊な力を使えるじゃないか」


 アベルもエリカに突っ込まれているな。

 ところで、ちょっと向こうから「ウグワー!」という女の声が聞こえたんだが。


 なんだなんだと近寄ってみると、木の枝や葉っぱを組み合わせて作った小さなテントのようなものがあり、その中でヒクヒクしている何かがいる。


「す、すごいバッドステータスだわ!! これは早く解毒薬を調合しないとだわ! だけど興味深い症状だわ! うひょー! 毒に麻痺に石化に……だんだん眠く……うおおーっ、万能薬ーっ!!」


 騒がしいぞ。

 そして、静かになった。


「一体なんなんだこいつは」


 呆れたアベルが、槍でテントを破壊する。

 すると、大きな本を抱えた眼鏡の女が転がっていた。


「ウグワーッ!! 太陽! 眩しい! だけど眩しいということは生きているということ! 僕は謎のバッドステータスを克服したわよー!!」


 もぎゃーっと手をバタバタさせて喜ぶその女。

 なんだろう。

 エリカはすぐ、彼女が何者か理解したようだった。


「その本!! 君は学者だな!?」


「はい? いかにも僕は学者ですが? 溢れんばかりの知性を持ちながら、魔力が無かったのでお師匠から破門された悲しき学者レーナです」


「よし、学者! 私たちの仲間になれ!」


 どん!

 エリカが大地を踏みしめたので、学者が衝撃でポーンと宙に跳ね上がった。

 なんだあの衝撃。肉体もバーサーカー化しているのではないか。


「うおーっ! それはまた、一体全体どうして!」


「私たちはこれから、向こうにあるどろ魔人の迷宮に潜り、どろ魔人をやっつけるからだ!」


 エリカは自信満々に宣言した。

 まるで、この言葉を放てば学者のレーナは絶対仲間になるとでも思っているかのようだ。


 俺としては、事実がどうであれエリカが言うことに異存はない。

 彼女を無限に甘やかすのが俺だからな。


「話が繋がっていないではないか。全くあの女は」


 アベルが溜息をついた。

 だが。


 レーナは一瞬だけポカーンとしたあと、すぐにその目をカッと見開いたのである。


「どどどどどどどどどど、どろ魔人の迷宮に潜るの!? それは僕も行かなきゃならないわね! えっと、誰だかさん!」


「エリカだ! 大騎士になる予定だ!」


「大騎士予定エリカさん! 僕も協力するわね!」


「よし! 行こう!」


 そう言う事になった。


「なんだ……。何が起こってるって言うんだ」


「理解しようとするな。向こうに取り込まれるぞ」


 混乱するトニーの肩を、アベルが叩くのだった。


「ところでアベル」


「なんだ青魔道士」


「フォンテインが仲間にした伝説の職業は全部で六人らしいので、あと二人増える」


「嫌な予言はやめろ。悪夢を見そうだ」


 あとは、風水士と忍者だな。

 俺の中で、エリカ=バーサーカー説は補強されつつある。


「こうして護衛もできたことだし、僕の力を見せてあげるわね!」


 レーナはスキップを踏みながら、どろ魔人の迷宮入り口らしき穴に近づいていった。

 すぐに飛び出してくるオオカミ型のモンスター。


「ウグワー!?」


 レーナは悲鳴をあげて、でかい本でモンスターを殴りつけた。


「ウグワー!?」


 モンスターが叩かれて吹っ飛ぶ。


「ふんっ!」


「ミサイル!」


 そこに、アベルのジャンプ攻撃と俺のミサイルが炸裂。

 オオカミ型モンスターは爆発四散した。


「チェック! ダイヤウルフ! 夜行性のオオカミ型モンスター! 背中から生えた結晶体を用い、遠くの仲間と通信を行える! さらに魔法結晶を使った多彩な攻撃! 魔法攻撃に弱い!」


 レーナは爆発したモンスターを指さしつつ、そんなことをつらつら口にした。


「すごい! 物知りなんだなレーナ!」


「そうなのよエリカ! 僕の武器はこの溢れんばかりの知性と、相手の能力を見破る力! ちなみに本にも魔化の魔法がかかっていて、これを通じて魔法みたいな効果を現せるわよ」


「心強いなあー」


「心強いなんて言われたの初めて!! エリカ好き好き」


 女子チームはすぐ仲良しになったな。

 見ていてほっこりする。

 アベル、トニー、なんでそんなしかめっつらをしてるんだ。

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