第28話 ラーニング! エリカの実家へ

 エリカの実家がある、ランチャー地方。

 まあまあ遠い。

 そういうことで、じゃあ旅費節約のついでにそちらへ向かうキャラバンの護衛をしながら行こうということになった。


 幸い、モーザルの歌のお陰でちょっとだけ俺たちは知られており。


「へえ、あんたらが眠りの精霊の歌に出てくる冒険者? あの最後にちょろっと出てきて眠りの精霊をボコっちゃう? へえー!」


 などと雇い主の商人に感心されてしまった。

 お陰ですぐ雇ってもらえた。


「騎士物語じゃない!」


 商人に聞かされて初めて内容を克明に知ったエリカが、ショックを受けている。


「うおー、家族になんて説明したらいいんだー! せっかく自慢できると思ったのに!」


「いいじゃないか。悪名は無名に勝るぞ。俺たちはまず、歌に出てくる登場人物まで格上げされたわけだ。ここから頑張って、歌の主役を目指すんだ」


「そ、そうか! そうだな! 言われてみればその通りだ! うおおー! 私はやるぞー!!」


 俺たちは幌馬車が連なる横を歩いて護衛しているのだが、他にも冒険者達が雇われている。

 彼らは、エリカが咆哮を上げたのを見て、目を丸くしていた。


 さて、馬車は四台編成。

 それぞれの馬車には御者が一名に、商人の使用人が一名。


 先頭の馬車に、雇い主である商人が乗っている。

 総勢九名の小型キャラバンに、護衛は俺とエリカ、そして四人パーティの冒険者の合計二組六名。


 十五名の旅となると、賑やかである。

 道中会話は無いんだが、途中途中で宿場町に寄ると、他の冒険者や使用人たちとともに飯を食うことになる。


 「最近は物騒になってきてしまってな。大規模キャラバンが、おかしな力を使う連中に次々襲われたりしたそうじゃないか」


 リエンタール公国の刺客たちだな。


「それに、勢力は衰えたそうだがゴブリン王国はまだまだ健在だし」


「最近だと、馬車をまるごとさらって行くでっかい鳥のモンスターが出るそうじゃないか! 羽ばたきで護衛も吹き飛ばされてしまうそうだ!」


「頼むよ、護衛の人達。俺らを守ってくれ」


 そう言われて、四人組の冒険者は曖昧に笑うだけだ。

 巨大な鳥のモンスターなんか、冗談じゃないと思っているのだろう。


 だが、うちの騎士様は違う。


「ああ! 任せてくれ! 途中で出会ったら私たちがやっつけよう!!」


 堂々と宣言する!

 俺はエリカの方針は支持することにしているので、深く頷いた。


「おう。俺たちがやっつける」


「こりゃあ頼もしい!」


「口だけでも、大きいことを言ってくれると気持ちが楽になるな!」


 という感じで喜ばれてしまった。

 他の冒険者四人は、俺たちを見て鼻を鳴らしているのだ。

 

 やりもしないことを、雇い主に好かれるために言いやがって……みたいに思っているのかもしれないが。

 エリカならやるぞ。

 で、エリカがやるなら俺もやる。それだけだ。


 護衛の仕事中に襲撃を受けるのは、他の冒険者達曰く、三回に一回くらいだそうだ。

 なお、俺達フォンテインナイツの場合、二回に二回だ。

 今回が二回目。


 つまり、襲撃があった。

 空からである。


『キョエーッ!』


 空が突然暗くなる。

 頭上に、アホみたいにでかい鳥の影が出現したのだ。


「で、出たー!!」


「護衛達、馬車を守ってくれー!!」


 馬がパニックを起こし、馬車が止まる。

 戦闘訓練など受けていない荷馬だから仕方ない。


 でかい鳥はこれを目掛けて、降下してきた。


「やるぞ、ドルマ! まずは私からだ! うりゃあ!!」


 エリカが駆け出す。

 降り立つ鳥の足目掛けて、グレイブソードを叩きつけたのである。


 タイミングはバッチリ。

 スイングも完璧。

 さらに、エリカのモーションは得物を振り切る状態だった。


 刃は鳥の足の指に叩き込まれ、爪をぶっ飛ばした。


『ウグワーッ!?』


 突如の激痛に、鳥が慌てて舞い上がる。

 切り飛ばされ、くるくる回転した鳥の爪が、馬車の幌に突き刺さった。

 鈍色に輝く爪は、まるで金属のようだ。


 普通、こういうのに切りつけたら、カキーンと跳ね返されてしまいそうなものだ。

 だが、エリカはそんな生半可な状況にならないように、なんなら剣が折れてもいい勢いで振り回すから大丈夫。

 剣と皮膚の強度対決で負けた鳥がやられた。


『キョエエエエエエッ!!』


 鳥が怒りに燃えながら、エリカを見据える。

 鳥からすると豆粒みたいなサイズだろうに、侮れない敵だと判断したのだろう。


 今度はさっきまでと同じようには行くまい。

 俺もエリカを守るために、横に並んだ。


『キョエエエエ!!』


 襲いかかってくる鳥!


「任せろエリカ! ミサイル!」


 俺は叫びながら、小袋に詰まった石ころをばらまいた。

 その全てが、炎を発しながら鳥を迎え撃つ。


 鳥の表面で、次々に爆発が起こった。


『ウグワーッ!?』


 鳥、でかさゆえかダメージは少なそうだが、かなり驚いて飛び上がった。

 そして接近戦はいかんと踏んだのか……。

 上空で、羽ばたきの速度を早めていく。


『キョオオオオオオオオッ!!』


 でかい鳥の咆哮が轟く。

 そして、周囲に猛烈な風が吹き荒れ始めた。


 幾つものつむじ風が生まれ、それが竜巻になり、俺達を挟み込むように襲いかかる……!!


「うおー!」


「くっ、ドルマ、耐えきろう! うおおー!」


 二人で支え合って、飛ばされないように頑張るのだ!

 その時。


『ラーニング!』


名前:ドルマ・アオーマーホウ

職業:青魔道士

所有能力:

・バッドステータスブレス

・渦潮カッター act2

・ゴブリンパンチ

・ジャンプ

・バックスタブ

・ミサイル

・バルーンシードショット

・ワールウインド NEW!


 新しい技の獲得なのだ!


「エリカ、反撃できるぞ!」


 俺は彼女に告げると、エリカを正面から抱きしめつつ、技を叫ぶ。


「ジャンプ!」


 飛び上がる、俺とエリカ。

 対峙するでかい鳥!


「空中戦か! いいぞいいぞ! 私もやってみたかったんだ!」


「おう。空があいつだけのものじゃないってのを思い知らせてやろうぜ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る