狐火☆バレット

猫とホウキ

第一章 蛇

1章-プロローグ 蛇の独り言

 窓を開けると、廊下に向かって風がビュンと吹き抜けた。ああ、こんなに風が強かったのかと、慌てて窓を閉めようとするが、隣の席の女子生徒に「今日は暑いし、たぶん開けたままでも大丈夫だよ」と言われて、私は少し悩んで──結局、窓を閉めるのをめた。


 昼休み。教室は気怠い雰囲気の中にある。再来週には中間考査、しかしゴールデンウィークが終わったばかりということもあり、皆、まだ身体から休みモードが抜け切れていない。


 それは私も同じ。特に窓際のこの席は、陽だまりで心地良く、気を抜くと睡魔に屈してしまいそうになる。


「クウコ。てめえ、相変わらずコロッケばっかり食ってんのなぁ」


 さきほど声をかけてくれた女子生徒に、ちょっとワイルドな雰囲気の男子生徒が話しかけている。恋人関係という様子でもないのに、いつもつるんでいる二人組。椅子に座っているのが最上もがみクウコで、他人の机に堂々と腰掛けているのが夏川一雷かずらい。小柄でお行儀の良さそうな最上と、上背がありヤンキーを通り越してチンピラみたいな様子(銀色の逆立った短髪、耳にはピアス、だらしない着こなしの制服)の夏川は、並んでいると凸凹でこぼこコンビという印象を受ける。


「だって美味しいし。コンビニ通るときに、ついお昼用に買っちゃうの」

「そりゃ理由になってねえ。いくら美味くても、毎日食ってりゃ飽きるだろ」

「そう? 好きなものなら飽きないけど」


 最上は少しもさっとした(もふっとした?)栗色の髪の毛先を、思いついたように指先で弄り始める。平気な顔をしているが、たぶんコロッケのことを少し恥ずかしいと思ったのに違いない。


 この良く目立つ二人コンビは、当然のことながらクラスメイトから注目されている。夏川にはネコ科の肉食獣のようながあり(顔立ちはそれなりに整っているのだけど、品性の無さが台無しにしているタイプでもある)、一方、彼と一緒にいる最上には小動物的な可愛さがある。二人を見ていると、まるで虎と兎が一緒にいるみたいで、どきどきしてしまうのだ。それは男女だからということでもあるし──それとは関係ないようにも思える。


 ただ私は知っている。彼らが虎や兎などではないことも、でないことも。そして思う、あの栗色を見るたびに──



 その場面を想像して、私は涎を垂らしそうになった。お昼ごはんを食べたばかりだというのに。

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