雨降る明日

こと。

雨降る明日はきっと晴れる

 その日、霧雨が降る春の夕方。

 10歳の少女は牛と出会った。


「あ、うしさんだ……!」


 少女は古ぼけた小屋の隙間から牛を見ようと、上下左右にちょこまか動く。


 さあああ


 その時、きまぐれな風に煽られた霧雨は、ひんやりとした水を小屋の中に与えた。


 冷たい風を身体に浴びて、一頭の牛は眠りから覚める。寝ぼけ眼でのっそりと顔を持ち上げると、柵の隙間で瞬きをした。


『にんげん……?』


 ——人間にしては小さく、犬にしては大きい、にんげん。

 何が楽しいのか、満面の笑みを浮かべてうろちょろしている。……だが、眠い。


 その牛は仲間達と同じように、気にせず眠ることにした。ぱふりと耳が動く。


「うしさんおはよう、朝だよー!」


 少女は何度か呼びかけるも、反応は返ってこない。


「……さむーい。」


 霧雨を含んだきまぐれな風は、傘をさしている少女でも防ぐことができなかった。


 ひんやりとした衣服は体温を奪っていく。すぐに帰ろうとした少女は、自分が迷子になっていることに気づいた。


□■□■□


 本日は春のおやつ時。一人で冒険に出かけた女の子は、知らない道を突き進んでいた。


 ぼうけん、ぼうけん。たのしい冒険。


 そうして歩いているうちに、女の子は道を失っていた。


 行きはよいよい、帰りはこわい。

 宝の地図を探してる


■□■□■

 

 とりあえず進むことに決めた少女は、牛達に言った。雨の日は寒いけど、次の日はきっと暖かい。

 何も心配ごとがないような、晴々とした表情で。


「雨ふるあした!」


 さああああ


 一頭の牛は頭を持ち上げ、去っていく少女を見つめる。どこか無機質で暖かくも、悲しげで。考えているようで考えていないような、そんな瞳だ。


——果たしてその明日はきっと、訪れるのだろうか。

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