解説①「世界観」

 Wikipedia程度の知識なのですが――。


  この物語の原てんとも言える「アスモデウスとサラの話」は、ユダヤ教やキリスト教の聖典『トビト記』に由来するらしく、その舞台は現在のイラクの辺りのようなので、この物語は中東チックな異世界が舞台の物語として観測されました。


 気候としては乾燥帯気候で、気温が高く、雨がほとんど降らない乾燥した地域です。

 この物語のメインは、セーラの心情に焦点を当てた叙情的な部分だと思っているので、あまり詳細な情景描写でテンポを損なうよりは、読んで下さった方の自由なイメージで楽しんで頂いた方がよいかなと思い、詳しい説明よりテンポを優先して文字に起こしました。 一応、暑さや砂地の描写がちらほらあったと思うのですが、みなさんはどのように読み取って下さったでしょうか。


 終幕の「洪水」や「枯れ川ワジ」の比喩は、そのような地域で暮らすセーラらしい表現でしたね。

 砂漠で洪水? と思った方も多いかもしれませんが、砂漠には滅多に雨が降らず、地面は乾燥して固まっているので、雨が降っても水は地面に吸収されづらく冠水してしまうのだそうです。

 特に「ワジ」と呼ばれる枯れた川は、普段は交通路として使われているそうなのですが、ひとたび雨が降れば溢れる水が一気にそこへ流れ込むため、鉄砲水が発生して毎年多くの死者が出るそうです。

 これらについて、物語中で前もって説明を入れられなかったので、クライマックスの比喩としては避けた方がよいかなとも思ったのですが。乾燥した地域で育ったセーラらしい比喩だったので、そのまま文章に起こしました。

 いかがだったでしょうか?


 また、中東チックな異世界が舞台ということで、言語は部分的にアラビア語を意識して書き起こしました。

 日本人の私が日本人に向けて日本語で書いているので、基本的には特に意識しませんでしたが、挨拶などには文化的な背景が色濃く出るかなと思いアラビア語を意識しました。

 例えば「よい朝を」・「安全と共に」という挨拶はそれぞれ、ベトナム語の眠る前の挨拶や別れの挨拶を直訳したものです(詳しくはないので自信はないです)。


 それから、この物語の登場人物たちはユダヤ教に近い価値観を持っています。

 Web小説で一般的な欧風異世界ものによく出てくる「教会」や「神父」ではなく、「礼拝堂」や「祭司」という名称が出てきたのはこのためです。

 安息日が土曜日なのも、ユダヤ教と重なるところだと思います。

 ちなみに、現在のイラクはほとんどの方がイスラム教徒で、ユダヤ教徒の方はあまり残っていらっしゃらないそうです


 食文化はイラクと似ています。

 第1幕に登場した「ナッツの一口ケーキ」は「バクラヴァ」に似た各種ケーキをイメージしています。いくつか種類があり美味しそうなので食べてみたいです……。

 また、同じく第1幕に登場した「豆のスープ」は「ラブラビ」をイメージしていますが、資料が少なかったので勘違いなどあるかもしれません……。


 他に異世界ものとして特異な点を挙げるとすれば、「ファッション誌」が出てくることでしょうか?

 『サコーファトン・メラビス』という誌名は、アラビア語で「服の文化」を意味するはずです(Google翻訳)。

 私たちにとってファッション誌と言えば、既製品の着こなしをメインに掲載した雑誌のことになるかと思いますが、『サコーファトン・メラビス』は仕立て方がメインであるというのが、個人的にとても面白いなと感じるところです。服は既製品を買うよりも各家庭で作る物である、という文化背景が如実に現れていますね。

 また、一番人気の雑誌が季刊誌というのも興味深い気がします。私には、現在知名度の高い雑誌は週刊誌や月刊誌という印象があるので。

 ちなみに、日本のファッション誌の始まりとの呼び声が高い『装苑』は当時、洋裁をメインに扱う雑誌だったそうです。また、その前身の一つが『服装文化』という誌名だったみたいです。


 ――このように、よくある異世界ものとはちょっと違う世界観だったと思うのですが、気づいて頂けたでしょうか?

 世界観の描写は控えめだったので、気づいて頂けなかったかもしれませんが、物語自体を少しでも楽しんで頂けていればうれしいなと思います。

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