Chapter11 ~As planned~

 完璧と言っていい闇夜、波も穏やかで上陸潜入には最高の日よりと言える。

 バン、ダイナ、ギン、カヤ、メイは深夜の砂浜にRHIB(ゴムと硬性素材の複合艇)ごと乗り上げ、岩陰に引き上げるとカモフラージュシートで全体を覆う、複雑な凹凸で構成されたシートで偽装され、ぱっと見では少なくともボートには見えなくなった。

 重労働を終え、一息つく5人、人気のない防風林のはるか向こうからVPG(Vibration-powered generator、振動発電機)のやかましい音が聞こえてくる。

 VPGは亡命してきた宇宙人達の情報協力と、振動し続ける侵略ロボットのコアパーツで実現した次世代型発電機だ。

 とはいえ発電効率はまだまだ悪く、トラックサイズの発電機で家一軒分の電力が精一杯、というところだが、ユニットを据え起動させ、置いておくだけで発電できるので郊外での復興需要と合致して需要は膨大だ。

 「こんだけうるせーとナビもいらねぇな、向こうだ」

 バンはタブレットの地図を見て、古いエンジンが振動するような音がかすかに響く防風林の向こうを示した。

 VPGもう一つの欠点はその騒音だ、市販品は防振防音素材で包みまくった上でようやっとエンジン式の発電機より少し大きい音程度の音が響き渡る。

 高価な機種は大型のバッテリーと太陽電池を併用し緊急時や高出力が必要な時にVPGを稼働させるハイブリッド型だが、今5人が目標としている校舎で稼働しているのは通常のVPGのみで稼働するものらしい。

 「んじゃいくぜ、準備いいか?」

 「「「「はーい」」」」

 「おっけ、メイは先頭頼んだ」

 3号島学校の制服である紺色のブレザーにスカートと赤ジャージに身を包んだ5人は闇夜に紛れて動き始める。

 皆プレートキャリア、ヘルメット、暗視装置はつけているが、装備がバラバラの為統一感はあまり無い、とはいえ目立っている者は一人も居らず、闇夜の影から影に移動する様は獣の様だ。

 「……。」

 先頭を進むメイが握りこぶしを軽く掲げると全員がその場で停止、全周囲警戒に入る。

 メイが指す先には切り開かれてはいるものの、手入れをしていない荒れ放題でガラクタが放置されている校庭がうっすら見える、その先には二階建ての小ぶりな校舎が僅かな光で照らされていた。

 資料では宿舎替わりに使用されている校舎は入口の光と非常灯、トイレと思しき校舎端の一室から漏れる光、以外は光が落とされている。

 「入口の見張りが居ると思うけど、もう3時半だし疲れてるはず、正面から行く?」

 まだ校舎には距離がだいぶある為、メイは小声でバンに尋ねる。

 「そうしよう、見張りをス巻きにして、中入ったら私が入口で警戒、あとは適当にツーマンセルで捜索、ほかの奴らも手足縛って口にはガムテで」

 「可能であればどこかに縛っておきたいね」

 それは出たとこ勝負かなとダイナが締める。

 「んじゃ各自ハンドカフの用意はいいな、ぶん殴るくらいはOKだけど殺さないように」

 それを聞いた全員が返事を返し、バックパックから黒いナイロン製の使い捨て手錠や結束バンドを取り出し、プレートキャリアに装備する。

 「はいおギンです、ルートは?」

 「あー、防風林沿いにライトを迂回してまっすぐでいいよ、動態センサがあるみたいだけど故障してるって言ってた。」

 小声で動きの大きいギンの質問に、目の前にあったセンサーらしきものを示すメイ、動作を示すLEDも点灯していないし、その先にある同じセンサーはそもそも倒れたままだ。

 よしいくぜと声をかけ同じ隊列のまま移動を開始する5人、確かにメイの言う通り、暫く進むと校舎の入口に男子生徒が現れた。

 再度拳を掲げ停止するが、男子生徒は校庭を見渡すこともなく、傍の椅子に腰かけ背もたれに体を預けぐうたらしているようだ、AKらしきライフルも足元に立てかけたままだ。

 5人は先ほどよりもゆっくりと、音に気を付けながら校舎へ接近する、男子生徒は両耳にイヤホンをつけており、完全に無防備な姿を晒していた。

 「♪」

 気取られずに背後に回ったメイが肩を軽くたたくと男子生徒がビクッと反射的に振り向く。

 振り向いたところを反対からバンがこめかみを強打、声も出せずに頭を押さえて崩れる相手をダイナが背中から羽交い絞めにして口にガムテープ、そのまま背中から押し倒してギンが足首を拘束、離れる際には手を後ろに回させてダイナがナイロン手錠で固めた。

 「はーい、暴れないようにねー」

 突然の襲撃に目を白黒させる男子生徒へカヤが自分のIDを提示する、「大蔵省特別捜査部第三課執行官」と大仰な肩書と顔写真、名前、そしてそれらを覆い隠す大きな赤字で仮と書かれていた。

 見慣れない、しかも警察でもないIDに首をかしげる男子生徒、そりゃそうだよねと後をメイが引き継ぐ、メイは男子生徒にコピー用紙を突き付けた。

「時間はあるんでゆっくり読んどいてください、夜が明けたら回収チーム来ますから」

 コピー用紙にはこの島自体が既に国の管轄なこと、実効支配組織が既にテロ組織として指名されていること、今拘束されている貴方たちは罪には問われないこと、指示に従わない場合は組織の一員と見なされる為実力で排除されること、といった内容が丁寧に書かれていた。

 「まともならソレ読んでからは抵抗はしないと思うけどな」

 一応、一応な、と言いながら男子生徒を引きずって、校舎内入口、残されていた下駄箱にパラコードで縛り付け、改めて目の前にコピー用紙を置いておく、色々を理解した男子生徒はぐったりとされるがままであった。

 「んじゃ次いきましょ」

 放置されているAKからマガジンを、チャンバーから弾を抜きそれぞれを適当に校庭脇の草むらに投げてからメイは戻ってきた。

 「んじゃ皆静かにな、拘束した場所は後で教えてくれ、あと目印忘れるなよ」

 バンは拘束した位置をタブレットに記載し、まだ船上にいる筈の柴田へ情報を送る、時刻はそろそろ4時になろうとしていた。



◇◇◇◇



 「1人いないし1機無い」

 校内をくまなく捜索した結果そう結論付ける一同、寝ている残留生徒達をかたっぱしからそれぞれの部屋で拘束し、チラシを見せていった結果、現生徒会長代理の吉岡恭子(よしおか きょうこ)が行方不明と判明した。

 「んで、皆に聞いたら畑の建物で毎日過ごしてるってさ」

 うぇーと舌を出してカヤが報告する、拘束した中で一番役職が高そうな女子生徒に尋ねたところ、どうやら畑の組織が建設した建物側に居るとのこと。

 「こいつかー、勉強できそうな感じだけどな」

 眼鏡に三つ編み、リストに載っていたいかにもな風貌に首をかしげる。

 「向こうに居る理由は濁されたけど強制じゃないみたい」

 「乱れてるねー、んでAAA(対空砲)も一機無いと」

 バンはタブレットでリアルタイムの報告を柴田に送りつつ次の報告を促す。

 「うん、私とギンちゃんで屋上設置のAAAには銃口から鉄棒と接着剤流し込んで使用不能にしてあるけど」

 「航空写真にあった校庭の対空砲が見当たらないでごぜーます」

 「あとコレ」

 ダイナは生徒の部屋にあったよと粗雑なマニュアルらしきものをバンに渡す。

 「なにこれ」

 ホチキス止めされたA4用紙の束、アップグレードキットとだけカタカナで書かれた表紙をめくるとバンの顔が一気に険しくなる。

 「じゃあ何、上のAAAは電動で旋回して電子照準器付なの?」

 「おギンとナーさんが確認した限りはばっちりです!」

 「バッテリーは引っこ抜いて破壊してきたけどね、不明の一機もアップグレードされてる可能性が高いよ」

 それはまじーなとバンは得た情報を送り、マニュアルもおおざっぱに撮影して送信する。

 ZU-23は本来手動旋回式で、扱いの手軽さを見込まれ民間供与用の対侵略ロボット兵器として各国から多数供与、提供されていた、本来の対空兵器としては型落ちもいいところだが、マニュアルが正しければこのアップグレードキットは電動旋回機構を追加、照準はディスプレイで目標に合わせてトリガーを引けばレーザー照準と連動し自動で偏差射撃が行える実用的な近接対空砲へ更新できるようだ。

 「単騎のヘリなんかひとたまりもねーなこれ」

 「有視界オンリーだけどね」

 とカヤが言うが、今日は天気も良く視界はばっちり、霧も望めそうにない。

 「おう、返信だ……まあそうなるよな」

 柴田から、大変申し訳ないが残ったAAAの所在を至急捜索してほしい、所在が分からない限りヘリは出せないとの連絡だった。

 「たっぷり二キロは射程内だからな」

 「早く見つけないともう夜明けだよ」

 時計を確認し手早く装備を確認、5人は捜索へ出発する、捜索とはいえこの時は全員「多分畑にあるんだろーな」くらいの意識で居たのだった。

 実際その通り接収予定の畑に据えられていたのだが設置方法は完全に予想外のものだった。


◇◇◇◇


 「何あれ」

 白み始めた空を目指すように校舎裏の丘を越え、木々に紛れつつ大麻畑に接近すると鉄筋のジャングルジムのようなものが見えてきた。

 「車両倉庫みたいなの建設途中みたいだね、スカスカだけど屋根はできてるし」

 「いやなんでAAAあそこに上げたよ、最悪だぞ」

 バンが心底嫌そうに倉庫の屋根を見る、そこにはしっかりと土嚢で囲われ陣地化された対空砲が見張り付きで稼働していた。

 「空からっていうよりはこっちの丘と、防風林の隙間から海狙うのが目的かな」

 「全周囲防御がほぼ完成してるじゃねーか、今だってこの林から出たら即死だぞ」

 畑の周り車で定期的に走っているのか、上手に雑草が処理され、林から盆地のような畑までは身を隠せる場所は無く、周囲の山や草むらからも切り離されており、明らかに監視と防護を目的に人為的に構築されていた。

 「だめだこりゃ、こっそりは不可能だな」

 「どーすんの、必殺技使う?」

 「こんなとこで使うモンじゃねえよ、メイ、スイッチブレードで吹っ飛ばせるか」

 ダイナがバンに小さな無線機のようなものを示すが、バンは手を振って拒否するとメイが背負っている自爆UAVでの空爆を尋ねる。

 「ぜんぜんイけるけど、こっからじゃ直ぐバレるね、林の入口くらいまで戻って発射しないと」

 「んじゃ一時後退、見つかるなよ」

 まだ夜の残る林の中へ消える5人、日の出まで残り十数分、極力急いで林の入口まで戻るとメイは発射の準備を進める。

 「発射したら島の裏をまわして逆側から突入させてくれ」

 「了解、突入させたら強襲? それとも私も一緒にいっていいの?」

 作戦確認をしつつ、各自不必要な荷物を下ろし、林の中に分散して偽装していく。

 「ダメ、発射後メイとカヤはさっきの林出口まで前進、そこから操作しつつ支援してくれ、万が一AAAが破壊できない場合は林まで撤退する」

 「はあい、そっちは?」

 「私とダイナ、おギンはスキ見て畑突っ切って反対側まで行ってみる、見つからなきゃラッキーだし、見つかったらその時点で吹っ飛ばせ、もしどっかで吉岡恭子を見つけた場合は確保、反撃してきた場合は撃っていい」

 「準備おっけー、発射から1分で島裏から偵察コースで上空旋回するからね」

 飛行コースを入力したメイは筒型の小さなランチャーを地面に据える、バイポッドを展開し筒を空に向けた。

 「いい?」

 「やってくれ」

 「ふぁいや」

 筒から伸びたコード、その先につながるグリップスイッチを押し込むと、ポコンという破裂音と共にスイッチブレードは発射された。

 折り畳まれていた翼を展開して電動モーターが始動、推進力で飛行を始めると5人は太陽の上り始めた空を目指して行動を開始した。


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