第58話私の覚悟

皆が出ていき先生と2人になった。


私は顔を上げられずにいる。


「サウスリアナ様、もう少し猶予をあげたかったが無理なようだ。」


先生が苦しげに吐き出す。

その声に思わず先生の顔を見た。


「君が人の命や尊厳を大事にしているのはわかっている。

敵に対しても。

君は否定するだろうが、私から見ればそう受け止められるんだ。リッツヘルムやアヤナもそう思っている。」


私は違うと言う前に発言を制された。


「今回の件も君は関わりがあるせいで全て背負い込んでいる。そして怯えているだろう。」


「関わりどころか私が元凶です。神前裁判なんかしなければこんな惨劇にならなかった。」


「君は賢いが馬鹿だ。神前裁判の結果はどうなった?」


呆れたように溜め息をつかれカチンときた。


「だから!神前裁判をしたせいでピンクがーーー

あ、」


神前裁判でピンクが大罪人の疑いをかけられたから皇室にまで教会の手が入った。

学園生も同じだ。

だってそのせいで裁判は中止になったんだから。


「そうだ。あの女が大罪人の疑いをかけられたことからこの騒動が始まった。

それがなければ神判者、神義者が教会で裁かれ、皇后とその一族、皇太子、馬鹿が皇帝に裁かれる位で済んだんだ。

そして裁判になったのも皇太子とあの女が発端だ。

君は当然の権利を行使しただけなのに必要以上に背負い込んだのは、神前裁判から始まったからだ。だけど今回の件と神前裁判は切り離さなきゃいけない。

裁判がなくても、いや、神前裁判をせず」


先生が私の思考を読んだように言ってきた。

普通でも裁かれる人が多すぎて『だけ』と言い難いけど、ここまでにはならなかった。


私も普通に神前裁判が終わっていれば、教会や皇室の判断で奴らがどんな刑を受けても裁判の結果だからと自分に納得ができ、引き起こした責任を背負う覚悟はあった。


その後の展開で人の尊厳とか命の軽さとかについて行けなくなってた。


そこに大勢の死人がでてキャパオーバーになって冷静さを失ってた。


「君が弱いとは思っていないが自分の定めた倫理観に縛られすぎている。

マセル公爵家後継者としては致命的だ。

このままではそれを利用され食い潰される。

貴族は弱みをつくのに長けているんだ。

リッツヘルムが不安定な今の君に職務を超えて諌言したのは自分たちの未来だけでなく君が大切だからだ。」


私もリッツヘルムやアヤナ達が大事だ。


最初は私の同意も得ずにこんな人生を押し付けられたとちょっとリアナを恨んだが、サウスリアナとして学園で生徒やロリコンを罠に嵌めたのも神前裁判をしたのも私の意思だ。


火事が起きる前まで価値観や倫理観の違いが酷くて本物のリアナと交代したいと思ってた。


方法がわからないのに第二の人生から逃げる事しか考えてなかったなんて恥ずかしい。


リッツヘルムだって言いたくて言ったわけじゃない。

私があまりにも頼りないからだ。


第一の人生だって平和だったが全く危険が無いわけでは無かったし、もし家族が危険が迫れば私は躊躇わずに人でも物でも排除する。

それで後で罪悪感に苛まれても後悔しないだろう。


「君が落ち着いて冷静に物事を考えられるようになってから話をしたかったんだけどね。」


私は先生を見つめた。


先生も最初は私の心を優先してくれた。

多分リッツヘルムが言い出さなきゃ私が逃げ続けるのを見逃してくれてただろう。


ずっと皆に守られていた。

もしかしたらお父様にもーーー


第二の人生でも家族と同じくらい大切な人達がいる。


守られるだけなんて性分じゃない。

大切な人を守る為にまだ頑張れる筈だ!


「いい顔になった。」


先生が優しく微笑みながら私の頬を撫でる。


今その顔は卑怯でしょーー!

顔から湯気が出そうだよ!!


「君が決断出来なければ切り札を切らなきゃならないかと思ったがーー」


私の顔が赤くなってるのに気づいてるくせに撫でるなっ!


「切り札ってなんですか?」


先生の手を払い除けて聞いてみた。


「君が決断できたのに言うわけないだろ。」


ですよね、知ってました。

その悪人も逃げるような笑顔引っ込めてくれます?




私は再びリッツヘルム、アヤナ、旦那さんと対峙した。


「リッツヘルム、さっきのあんたに聞かれた覚悟はまだない。」


その『えっ?』って顔やめてくれる?


「でもアヤナやリッツヘルムが危なくなったらそうした奴を許さないし、やられそうになったら私がやり返してやる。

今はまだ国に対してできるかって聞かれたら無理だけど、自分の大切な人が危なくなったらどんな手を使っても守るから。

その覚悟はできたよ。」


私の決意を聞いた皆は肩を落とした。

失望させてるのはわかってるけど今の私にできるのはここまでだ。


「お嬢様、覚悟の方向が違います。」

「お嬢様ってどんな思考の持ち主なんだい?」

「俺が言いたかったのはその覚悟じゃねえよ!」

「どうしてそうなったんだ?!」


だからリッツヘルムの言う覚悟は出来てないって言ったでしょーが!


「仕方ないでしょ。国なんて大きなもんまで考えられないよ。でもだんだん広げていくからもうちょっとだけ待ってよ!」


お父様が死んじゃったら猶予なさそうだけど、私の他にも公爵いるんだからそっちにも頑張ってもらうよう交渉するし。


「リッツヘルムの言ったのはその覚悟ではなくてですね···」


アヤナが言いにくそうに私を見るからわかってると言うように頷いた。


「大丈夫。

確かに命より重いものはないと思ってるし最後までその決断はしたくないけど、その方法以外に皆を助ける道がなくなったら覚悟が出来る。

これからは剣術も学ぶよ!」


私はアヤナの手を握りしめ約束する。


「だから俺が聞いたのはそっちじゃねーよ!」
















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