第3話 もっと好きになる、ずっと好きでいる。


サクさんは後日、約束通り僕にプロポーズをしてくれた。綺麗なペンダント付きで。

僕は勿論、喜んで結婚に承諾した。

そして、サクさんはそれから一日経って…


「結婚の挨拶に行きたい」


と言い出した。


「え、えっ…??本当に行くの…?もう少し経ってからでもっ…」


僕が挨拶に行くことに反対する理由は3つある。


1つ目は、村では少なからず、獣人差別意識が残ってるということだ。僕の世代や若い子達は差別なんて意識もしたこともない人も多いけど、ご老人の方や、まだそういった思考をしている人も沢山いる。


2つ目は、僕の村には結婚をする時に村長に報告するようになってるんだけど、その村長さんが獣人が大嫌いだってことで有名なんだ。法的には、報告なんてしなくても良いんだけど…そこは田舎の村だし…ね?

王都ではこんな面倒くさいことなんて無いんだと思うんだけどな…。


3つ目は、まぁ…、村の中でサクさんがいたら騒がれるってことかな…、まぁ、当然だよね。


ってことを全部サクさんに説明した。

だけどサクさんは…


「リウが嫌だって言っても行くからな。」


と、ずっと言われ続けたので


「うう〜〜〜〜…分かったよぉ〜〜!!」

「じゃあ明日にしよう、明日行こう」

「ええ…!?流石に明日は…。」

「リウの両親も会いたがってくれてるんだろう?」

「そ、それはそうだけど…」

「分かった、一週間後にしよう。

また一週間後にうちに寄ってくれるか?」

「…分かった」


確かに、お母さんとお父さんにはプロポーズされたことは言った。

しかも母さんも父さんも僕達の結婚にノリノリなようで


「リウにも、好きな人と結婚してほしいからなぁ」

「そうね、私達みたいにね!!」

「そうだね〜〜!」

「これを機にもう少し都会にお引越しするのはどう〜〜?」

「そうだなぁ、二人が幸せに暮らすために引っ越すか!!」

「そうね〜!そうと決まったら準備しておかなくちゃ〜!!」

「ち、ちょっとまって!話が進みすぎだよ!」

「良いの良いの!それよりどんな所が良いかしら?」

「やっぱり治安が良いところが良いなぁ〜」

「そうよね〜!」


と言った形で、話はかってに進んでいるようだった。


だから、僕が帰ってからサクさんが一週間後に家に来ると言ったら、二人共大喜びだった。


ちなみに友人たちにもこのことを伝えたら、『やっと顔が見れるのかよ〜〜!長かったぜ!』『おめでとう!うちのケーキを持っていってあげるわ!』『じゃあ私達全員で結婚祝いしてあげるね!!』なんて言ってくれた。それは素直に嬉しかった。


そして一週間はすぐに過ぎた。




******



僕は今、サクさんの家にお迎えに来ている


「サクさ〜ん!準備出来た〜?」

「ああ、いま出る」


そう言ってでてきたサクさんは、いつもの服とは違い、もの凄く王都の貴族にいそうな格好で出てきたため、僕は呆然としながらもサクさんに問いかけた。


「さ、サクさん…?えっと、その服…っていうか、全部だけど…どうしたの?」

「結婚の挨拶に行くんだ、これくらい当たり前だろう?」

「こ、こんなお金持ちそうな格好で挨拶に行く人なんて…、うちの村には居ないよぉ…!」

「気にするな、早く行こう」


そう言って、サクさんはいつものように僕の手を掴み、村に向かって歩き出した。




******




僕らが村の中に入ると、次第に周囲がざわつき始めた。

近所に住んでるパン屋のおばちゃんには声を掛けられた。

おばちゃんのパンはもの凄く美味しいんだ。


「まぁ、…もしかして、その御方がリウちゃんの旦那さん…?」

「えっと…」


僕がもごもごしていると、サクさんが僕の代わりに答えた。

あ、このときには獣人だから何か言われるかも知れない…という不安よりも、こんな完璧な人の横で、こんな僕がそうです!僕の旦那なんて言って良いのか…!?なんてことばかり考えていた。


「法的にはまだですが、数日後には旦那になる予定です。

なのでまだ婚約者なのです」


しかも、答えたサクさんはいつもと口調が違うし、まとっている雰囲気も違う。


「ま、まぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!リウちゃんったら!玉の輿じゃないのぉ〜〜!!」


と、獣人ということも気にしていない様子で大騒ぎしながら祝ってくれた。

正直、道端で、いつも大きな声をだすおばちゃんの質問攻めは死ぬほど恥ずかしかった。


周りの人たちは、僕らから聞こえてくるの会話の内容で…


『リウの婚約者ってお貴族様らしいわよ…!!』

『す、凄いわ…!』

『本物の貴族って私初めて見たけど…、なんて言うか雰囲気が庶民と違うわ…』

『俺も初めて見た…』

『見るからに金持ちじゃねえか…!!』


などと言っており、僕は今すぐ否定したかった。

だって、いつもはこんな格好じゃないし、僕が作る普通の料理も美味しいって言って食べてくれるし、お金だって節約していると言っていたし…。まさか本物の貴族なはずがない。

きっとこの服は一張羅みたいなもので着ているから、毎日こういう服を着るわけじゃないし、今こんなに貴族だと騒がれて、違うと分かった時には皆の態度が変わるのが、僕は怖かったから…。

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