第5話 アダム・リズパインとは?

「お呼びと聞き参上いたしました」


 しばらくすると、扉が開いて一人の青年が入ってきた。黒髪に紫の瞳の美青年で、目元の黒子に色気があった。ダニエル王やイーサンを見た後だから華奢に見えるが、背が高く細いが引き締まった体型をしている。何より、その手が魅力的だった。男らしく節榑立った長い指は、いいとこに届きそうで無茶苦茶好みだった。


「アダム、おまえに妃を用意した」

「……ちょっと意味がわかりかねます」


 そりゃそうだろう。私もよくわからないけど、ダニエル王が私に向かって顎をしゃくったから、私のことを差して言っているんだろうな……って、私が妃?この美青年の?


 顔はまぁ良いにこしたことはないけど、そこまで重要案件じゃない。問題は……身体(主に下半身)だ!!


 まるで洋服を透かす魔法を眼力にこめるように(残念ながらこの世界に魔法はないようだが)、グワッと目を見開いてアダムとやらの下半身を注視する。


 うーん、よくわからない。


 私の視線に何を感じたか、アダムは少し頬を引きつらせて私から視線をそらす。


「陛下、僕は女性は……」

「王太子のおまえがいつまでもくだらんことを言うな」


 王太子?ということはダニエル王の息子か。顔は全然似ていないけど、絶倫王の息子。これは期待できるんじゃないだろうか?


「しかし……」

「おまえのはただの食わず嫌いだ。女はいいぞ。ほら、この娘ならば見た目もそこまで女女してないからな。おまえもいけるんじゃないか?俺は無理だがな」


 女女してないからいける?もしかしてアッチの趣味が?さすがに同性愛者をその気にさせるのは無理よ。前世でもバイ相手なら撮影したことある。男二人に私一人とか、ご馳走様ですって撮影に挑んだんだけど、男二人が盛り上がりだして、私は付け合せ程度の扱いでマジ激怒!あれは私の黒歴史だ。


「僕も……無理です」


 ダンッ!!無理無理言うなァッ!

 私はイラッとして思わず足を踏み鳴らしてしまった。そっぽを向いて知らんぷりをするが、イーサンが呆れたように私を見ているが無視だ。


「もう決めた。元キスコンチェ王国の……第二王女だ。今日からおまえの妃だ。面倒見ろ。後で婚姻証明の書類を持っていかせるからサインしろよ。あぁ、イーサン、おまえはしばらく二人の警護が担当だ」


 名前忘れましたね?!


 ★★★


「アダム王太子殿下、こちらはキスコンチェ領主が次女シャーロット殿。シャーロット殿、アダム王太子殿下はスザンナ第五妃を母君に持つ第一王子で二年前の成人の儀を持って立太子されてる」


 イーサンに紹介されている間、私達は向かい合いお互いに見つめ合った。

 唯我独尊タイプのダニエル王と比べると、明らかに覇気がなく優しげな風貌をしている。これが大国の王太子で大丈夫なの?と思わずにはいられない。うちのスチュワートも王太子としたら優し過ぎてなんだけど、平和な山間の小国だし、みんな仲良く生活しましょうがスローガン(マジでパパリンが考えた)の国だからあれで良かったのかもしれないけど、これから大国の自治領主になるのなら、もう少し図太くならないと生き残れないかもしれないな。


 そっか、キスコンチェ王国の為を考えれば、ダニエル王のハーレムの第?夫人になって埋もれるより、王太子妃になった方がいいかもしれない!


「アダム王太子殿下、ちなみに私は何番目の妃になりますか?ハーレムには何人の夫人がいますか?」


 ダニエル王が妃を用意したって言ってたからね!たかだか小国の元王女で申し訳ないけど、キスコンチェ王国の為にも発現権のある王太子妃のが断然いいし、今更夫人に降格なんてナシよ!


「いや、妃とか……」

「アダム王太子殿下に妃はいない。シャーロット殿が第一王太子妃になるな。ハーレムも存在しない」


 オドオドしているアダム(もうアダムでいいか、威厳とかないし)にかわり、イーサンが答えた。


 なんと、第一王太子妃!私が?


 これは、リズパイン王国の王族の内情を調べる必要があるな。ポッと出の小国の元王女が将来の大国の王妃とか、絶対に有り得ないでしょう。もしかすると、立太子自体が仮初めのもので、間繋ぎとか考えられてるかもしれないじゃん。


 キスコンチェ王国の為にも、旦那様にはこのまま王になってもらわないとだもんね。そして、閨の面でも私好みに調教して、めくるめく官能の世界を二人で楽しまなくちゃ!あの王の息子なら絶対に適性がある筈よ。


 もし駄目なら……何年か後にダニエル王のハーレムに入れてもらえないかしらね。親子丼ぶりも、私的にはアリなんだけど。


 まずはそんな未来の心配をする前に、旦那様と交流を深めなくては。お互いをよく知ることが、めくるめく官能の世界の第一歩だもんね。


「アダム様……と呼んでも?私のことはロッティと呼んでね」


 敬語も取っ払うよ。まずはフレンドリーな感じで私に慣れてもらいましょう。


「ロッティ……嬢」

「嬢はおかしいわ。妃になるならもう嬢じゃないもの。はい、ロッティよ!ただのロッティ。呼んでみて」

「……ロッティ」

「良くできました」


 私はニッコリ笑って手を差し出した。恐る恐る手を出してきたアダムの手をムンズと掴むと、そのままブンブンと振り回す。


「私の面倒はアダム様が見てくれるんでしょ。なら、住まいはどこになるの?これだけ広い王宮なら、王太子宮とかありそうね」

「あぁ、王太子宮はあるけど……」


 私はアダムの腕をとると、グイグイと引っ張った。残念ながら、おっぱいがないから胸を押し付けて誘惑とかはできないんだけどさ。


「なら案内してよ。私、長い旅してここまで来たのよ。もうクタクタなんだから」


 まだ夕方ですけどね、なんならこれから一緒にベッドで休憩しちゃっても良いんですよ。


「それは悪かった。とりあえず宮に案内する」


 アダムの腕にぶら下がる(身長差がえげつなかった)ようにして謁見の間を後にし、王太子宮とやらまで馬車に乗って移動した。

 後でマロン達を王太子宮に移動してもらわないとだわ。この王宮広すぎるから、移動にはマロンが必須だね。


 王太子宮は、主宮殿に比べると慎ましやかだったがキスコンチェ王国のなんちゃって宮殿よりも立派だった。


「うちの宮には侍女がいないのだが……」


 えっ?なに?逆ハーレム?最高じゃん!


「殿下、私は女性ではないと」


 宮に入ると、痩せぎすの老婆が出て来た。侍女服を着ているから侍女なんだろうけど、かなり高齢に見えるがこれで仕事できるのだろうか。


「マリア、いやそうか、侍女はマリアがいたな。ロッティ、侍女のマリアだ。マリア、ロッティの世話を頼むよ。彼女はシャーロット。キスコンチェ王国の第二王女だ」

「マリア、初めまして。今は王国ではなく領主領ね。シャーロットよ。アダム様の妃になったの」

「まあ!殿下の?!殿下、女嫌いは治ったんですか?!」


 マリアが皺々の顔にギョロっと大きな目をさらに大きく見開いて叫んだ。ちょっと魔女みたいで怖い。


「……アダム様は男好き?」

「違うから!……そうじゃなくて、ただたんに女性が苦手というか。断じて男が好きなんじゃないから」

「それは、先天的に?後天的に?」

「殿下は幼少の時からオッパイの大きな女性は苦手でしたけど、ある時を堺に受け入れられなくおなりになって……」


 女じゃなくて、まさかのオッパイ嫌い?


「マリア!」

「本当にございましょう。あれは忘れもしない十二歳の時、ハニートラップに合われておもどしになられたじゃないですか。ベッドの始末が大変でしたよ。あれ以来、女性を敬遠されるようになって、王太子宮の侍女も下げられてしまわれたではないですか」

「あれはちょっと上に乗られてトラウマが……」


 よくわからないけどトラウマのせいで女性嫌いになったと、特にオッパイが苦手……ということか。


「アダム様!女性嫌いだとまずいです。跡継ぎ作るのも、重大な王太子のお勤めですよ。是非にこの機会に女性に慣れましょう。というか、私に慣れましょう」


 そしてレッツ子づくり。めくるめく官能の世界ですよ。


「さようですよ。シャーロット様はオッパイもなさそうですし、殿下のトラウマには全くもってかすりもしなさそうじゃありませんか。なるほど!良いお妃様をお選びになりましたね」


 マリア、一言多くない?

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