第84話 とある歩兵団長のお話し

 「オメエラはさっさと逃げろ! あれに飲み込まれたら地獄に落ちるぞ!」



 先行した重装戦車ヘビーチャリオット隊、前面にいた歩兵部隊は、木偶人形の黒い盾に飲み込まれて、戦場から姿を消した。


 あたしの部隊はギリギリ、あの木偶デクと勝ち合うことなく撤退できている。



「で、伝令、逃げるな、だそうです」



 あたしの元に走ってきた少年兵。後方作戦本部からの指令を伝えに来たのだが、「逃げるな」はねえだろ。


 後退しながら十体以上の木偶デクを倒したが、あたしの部下とどっこいのレベルだ。なんなら新兵や農兵じゃ、速攻、黒い盾に飲み込まれてしまうだろう。



「ほら、お前も逃げろ」



 言ってるそばから木偶デクが黒い盾を押し出してきたので、黒い盾を交わして頭を切り落とす。



「伯爵に伝えてくれ。剣豪ミザリーが一太刀浴びせてくると」



 少年の頭を軽くなでる。少年は泣きそうな顔であたしを見る。



「覚えておけよ。戦争なんてロクなもんじゃねえんだ。お前は生き延びろ。あたしはやられっ放しってのは性に合わねえんだ。だから、ちょっと行ってくるわ」



 遠くに見える敵本陣。そこに木偶デクを作ったヤツがいる。ツラだけでも拝まないとあたしの気がすまない。



 撤退する部隊から離れ、木偶デクの群れに突撃する。こいつらはたいした動きはしない。黒い盾にだけ気を付ければ突破するのは難しい事じゃない。



 迅速のミザリーをナメんなよッ!





 木偶デクの群れを突破したあたし。敵陣までは無人の草原だ。敵の騎馬隊は百騎程度。まあ、何とかなるっしょ!



「んなっ!?」



 何かが来て、咄嗟に剣で受けたが吹っ飛ばされた。はい? 



「剣が折れた? な、何だ!?」



 半分になった剣を構えなおす。



「ん〜、意外とたいした事なかったかぁ」



 子供? 背の低いツインテールの少女。両手に持つ剣を待つ姿から剣士である事は分かるが、戦場に立つ者の気構えや緊張感などがまったく感じられない。


 そんな少女の右手に持つ剣が、あたしに向けられた。



「来なよ」



 な、ナメてんのかガキッ!


 折れた剣を捨て、予備のショートソードを抜く。



「迅速のミザリーと呼ばれるあたしの連撃、受けきれるかいッッッ!!」



 半瞬で間合いを詰め、ショートソードを上下左右、逃げる間も与えない連撃を食らわす。


 オークだろうが、オーガだろうがこま切れにするあたしの連撃。



「な、な、な、なぁぁぁぁぁ!?」



 あたしの連撃を数撃受けた者はいた。しかし、目の前のガキは全て交わしてやがる。



「あた、あた、あたらねぇぇぇぇぇぇッ!!??」


「ガッツのおっさんよりは上ってぐらいか」



 ガッツのおっさん? アザトーイの騎士団長か?



「んじゃ、オレのターンだな。ムッソウ流改・紫電ハ華乱舞!」



 はひ? あたしの視界にいたガキが残像を残すようにブレる。目に見えない斬撃の嵐。そして一瞬見えた額の紋章。



「け、剣紋……。ハハハ、キャハハハハハハハ!」



 消え入る意識の中であたしは笑った。剣聖様かよ! あたしは死ぬ時は自分よりも剣で強いヤツに殺されたいと思っていた。それが剣聖様なら、これ以上のご褒美はないわなと。



「殺しはしないよ」


「ぐっ、な、なじえぇぇぇ」


「ルミアーナ様ばかり目立たさねえ。あんたは生け捕りにする」



 激しい乱撃は全てが峰打ちかよ!



「クッ、殺せ……!」



 その言葉を最後に、あたしは意識を失った。



――――――

【作者より】

本日は複数投稿します

書けたら最終話まで行きますよ😀


 

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