Lesson4 厨二病ちゃんとツンデレちゃん


『すみません先輩! 昨日は寝落ちしたみたいで……』

「いや大丈夫だ。それよりも、お酒はほどほどにしないとだな」

『そんなに飲んではないと思うんですけど……ちょっと一限遅刻はしてしまいましたが』

「わっはっはっ! 初めてなんじゃないか? 授業をサボるというのは!」

『べ、別にサボってはいないです。途中からは参加しましたし。……というより、今日先輩見かけなかったんですけども。先輩、今日は二限から五限までずっと授業あったはずですよね?』

「自主休講だ」

『またですか。今日は何でサボってたんですか?』

「えぇっ⁉︎ まぁ、色々とあってだな……」

『ふーん。まぁ、いいです。今日は何のキャラでいけばいいですか?』

「そ、そうだな……。あまり考えてないな」

『えぇ?』

「逆に何がいいと思う?」

『はぁ? キャラ的な話ですもんね……そうですね、最近読んだ小説に厨二病? というキャラがいて面白そうだなって。よく分かんないですけど』

「じゃあ、それで行こう‼︎」

『わっ、かりました……じゃあ、もう一度かけ直しますね』

「おう」


「……あ、言うタイミング逃してしまったな。ま、いいだろ。別に後でもいいか」



『──ふっふっふっ、貴様が我が主人あるじか?』

「あ、あぁ。あるじ? えー、厨二病ちゃんか?」

『いかにも。我が名は純白じゅんぱく黒狼こくろう

「純白⁉︎ 黒狼⁉︎ どっちだ⁉︎」

『といっても、それは世俗で騙る通り名ではあるがな。真名はまた別にある』

「それが厨二病ちゃんか」

『えぇい! その名で我を呼ぶな! 次にそれを口にしてみろ。我の右腕に刻まれしこの紋様が光を帯び、貴様が絶望に屈する苦痛を与えることになるぞ!』

「めちゃくちゃ怖っ⁉︎」

『まぁいいだろう。ところで、我をお気に召したから召喚したのだろ? 要求はなんだ』

「要求?」

『そうだ。なんだ、要求がないというのに我を呼び出したのか?』

「要求か……あるとすれば、厨二病ちゃんに直接会いたいことだな」

『ほぉ、我と謁見したいとな。しかし、残念だがそれは難しいな。我の右眼には色欲の悪魔が宿っている。直接目を合わせたが最後、貴様は石となるだろうな』

「な、なんだと……⁉︎」

『さらには右脚に封印されし竜の力で貴様の身体を蹴り散らしてしまうかもしれんな』

「そ、それは怖いな⁉︎ って、さっきから右半身ばっかり取り憑かれてないか⁉︎」

『う、うるさぃ! とにかく会う訳にはいかぬのだ。貴様は孤独であることを恐れ、生き急いでるのかもしれないが、我に利益を提示しない限り交渉は成立しないぞ』

「利益なぁ。……からあげちゃんでどうだ」

『貴様は我を舐めとるのか‼︎』

「えぇ⁉︎」

『そんな鳥肉で満足するわけなかろう! いや旨いのは分かってはいるが! グリフォンくらいの肉は我に献上しろ!』

「グリフォンだと……⁉︎ それは具体的にどの辺りを生息地としているんだ……⁉︎」

『乗っかるのか⁉︎ くっ、調子が狂うな……で、貴様は我と謁見して何がしたいのだ。言ってみたまえ』

「いやぁ……実は今度女の子と会うことになったからさ、今度は会った時のアドバイスを欲しいなと思ってさ」

『女の子と会う? 誰だそれは』

「マッチングした子」

『ふっ、虚飾を並べたところで』

「いや、真実だ」


『──それって演技じゃなくてですか』

「俺が演技下手なのは知ってるだろ」

『え、いつですか』

「土曜、明日だな。駅前で待ち合わせすることになってる」

『……へー。いいんじゃないですか? 直接会うまでいけたなんて』

「まぁ、これも全て後輩に助けてもらったおかげだよ。いやぁ、言いそびれてたんだけど今日大学行かなかったのは、その子と電話してたからなんだよなー。だから頼む! 明日の夕方には約束してるからさ、先に会ってシミュレーションをだな──」

『か、勝手にしたらいいじゃないですか』

「え?」

『だから、勝手にマッチングしたんですし、もう勝手にすれば⁉︎』

「お、おぉう。いや、言わなかったのは悪かったよ。けど、元々は俺のことだし、付き合わせてばかりなのも悪いからさ。結局は俺一人で挑まないといけないわけだし、さすがに隣に呼んでまでデートは行けないからな。だから後生の頼みだ! 俺に最後の教えを!」

『嫌です』

「なっ⁉︎」

『私はそんなアドバイスするわけないじゃないですか。なんでただの後輩の私がそこまでしないといけないんですか』

「そ、それはすまん……。てっきり俺を憐れんでハーレム王にさせようと背中を押してくれてるのかとばっかりに……」

『そんな理由で手伝うわけないじゃないですか』

「そ、そうか。じゃあ、何でわざわざ毎日電話してまで手伝ってくれるんだ?」

『……バカ』

「え?」

『別に、先輩のためにやったわけじゃない。これは私が、先輩とはな、はなs……』

「え?」

『……っ! バカ! 鈍感! ここまで来ても分からないなら女心とか一生分かんないですよ! 先輩はどうせボッチのままなんだから、好きにすればいいんじゃない⁉︎ バッカじゃないの‼︎』

「えっ⁉︎ ちょっ⁉︎ ──切れた……ツンデレちゃん、いや、ツンツンちゃんか? あー、なんか悪いことしたな……。謝んないとだよな……」



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