天牙の華 ~政略結婚から始まる復讐は、最強の【刀】に至上の恋を教える~

八重

プロローグ

第一話「私の復讐の全てはここからはじまった」

 それは季節外れの雪が降り積もった日だった──



「はぁっ……はぁっ…………」



 10歳の少女は薄い寝間着姿のまま屋敷から勢いよく飛び出し、裸足のまま雪をかき分けてひたすらに進み続ける。

 少女が走る呼吸に合わせて、彼女の赤く長い髪が揺れ動く。

 その両手には双剣が大事に抱きかかえられていた。

 

 突如、少女の後ろから凄まじい轟音が鳴り響く。

 思わず、少女は音の鳴るほうへ顔を向けた。


「お父様っ……お母様っ……」


 振り返った先には、彼女が10年の月日を過ごした屋敷があり、その屋敷は脆くも炎に包まれ崩れ落ちようとしていた。

 少女は唇をかみしめ、止めていた足をもう一度屋敷とは反対の方向へと動かす。


 森の中を駆ける少女。

 次第にその勢いも弱まってくる。

 10歳の少女に体力の限界が近づいてきていた。

 

 やがて、彼女は足がもつれ雪の中に全身を投げうつように転んだ。

 

 

 「……う……はぁ…………」

 

 少女は起き上がろうとするも、もはやその余力はなかった。

 

 「――っ!」

 

 少女は大事に抱えていた双剣の感触がないことに気づいた。

 焦った少女は赤い髪を振り乱しながら、何度も辺りを見渡す。

 ようやく少女は、少し離れた先に刀が二振り雪に埋もれかけているのを見つけた。

 少女は必死に双剣のもとへたどり着こうと、這って進もうとする。

 しかし、雪が深く積もっている上に、少女の弱り切った体力ではうまく進めない。

 

 「おねがい……『イグ』……あしをうごかして…………」

 

 少女の願いも虚しく、彼女自身の衰弱によりイグの力を発動することができない。

 

 

 もう少しで双剣に手が届くその時、ゆっくりと雪をかき分ける音が少女の耳に微かに入った。

 

 「……だれ……?」

 

 「────────」

 

 誰かが少女に話しかけるが、彼女にはもう届かなかった。

 

 

 次第に彼女は瞼が重くなり、ゆっくりと意識を失っていった。

 少女の手は双剣を強く握りしめていた──

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