第7話 墓場と、人助けと、インゲンのオーク肉炒め

 インゲンをお供えしてみた。

 出たのはなんと墓場。

 墓という事は街が近いんだろうな。

 でも、案内なしに異世界で行動するのは怖い。


 墓場が怖かった訳ではない。

 人が来ないなと思っていたら、子供がフラフラと歩いて来て座り込んだ。

 何となく様子がおかしい。


「おーい、助けが必要か!」


 境界越しに話し掛けるも、返答はなし。

 子供は座っているのもつらくなったのか、地べたに寝転んだ。

 ここからでもぐったりしているのが分かる。


 行ってみるべきだな。

 もし、助けが必要でなかったとしても、笑い話で済む。


 ジャガイモの入った箱を手におすそ分けスタンピード。

 くそっ、発動しない。

 数が足りないのか。


 待ってろ、今助けるからな。

 少し頭が冷えた。

 俺の馬鹿。

 助けるって言ったって、何か薬とか必要だろう。


 そうだ、エイザークは俺の野菜にポーション効果があると言っていた。

 よし、キュウリとハチミツをミキサーにかけて野菜ジュースにするぞ。

 スタンピードを起こす野菜はインゲンにしよう。

 今、手元に50本ぐらいある。


 準備を整え、いざっ!


「おすそ分けスタンピード」


 やった、出られた。


「おい、しっかりしろ。これが飲めるか。薬だぞ」


 子供の上半身を起こした。

 体が火の点いた様に熱い。

 ペットボトルに入れたキュウリジュースを口元に持って行く。

 意識がもうろうとしているようだ。

 気管に入らないように少しずつ注ぐ。


 ごくりと喉が動いた。

 良かった飲んでいる

 ゆっくりだった飲み込みは次第に早くなった。

 ペットボトルが空になり、子供は目をぱっちり開ける。

 熱も下がったようだ。


「おじちゃん誰?」

「俺か? 俺はソウタっていう農夫だ」

「おいら、ユークスって言うんだ。ここは天国?」


「いいや、墓場だ」

「なんだ、やっと母ちゃんの所に、行けると思ったのに」


 落胆した様子の子供。

 この歳で死を受け入れているなんて、悲しいな。

 生きる喜びを、これから沢山知っていけるだろうに。


 この子にどう言おう。

 下手な慰めは逆効果だ。


「腹減ってないか。美味い物を食わせてやるぞと言いたいが、インゲンだけじゃな」

「おじちゃん、野菜があるなら、半分売ればいいんだよ」


 賢いな。

 ユークスはまだ6歳ぐらいに見えた。

 栗色の髪はぼさぼさで、洗ってないのが分かる。

 服は薄汚れているし、肌も汚れている。


 風呂に入れてやりたいな。

 それはもっと落ち着いてからで良いだろう。


「よし、売りに行こう。案内してくれ」

「こっち」


 墓場を出て街道をしばらく歩く。

 城壁に囲まれた街が見えて来た。


 門の所に行くと、街に入る人の列が出来ていた。

 列に並ぶ。


「入る時に税金を取られたりしないのか?」

「するよ。金がないから、魔法で払うんだ」

「俺は魔法を使えない」

「おいらが、おじちゃんの分も払うよ。助けてもらったお礼だよ」


 列は消化されていき、俺達の番になった。


「ユークスか。足税は魔法で払うのか」

「うん。おじちゃんの分もね」

「おい、ユークスが来たぞ!」


 門番がそう声を掛けると、詰め所から同僚と思われる男が出て来た。


「じゃやるよ。【水魔法、洗浄】」


 水が男を包むと、汚れを落としたのか、水は消えて行った。

 ユークスは何で汚い恰好をしているんだ?

 何か事情があるんだろうな。


 足税を魔法で払って街に入る。

 ユークスに市場へ連れて行かれた。


「野菜を売って何を買うの?」

「肉と油と塩だな。かまどやフライパンをどうするべきか」


「それなら、任せて」


 連れて行かれたのは肉屋。


「肉屋のおいちゃん、天国の野菜を持ってきたんだ。これで料理を作るから半分こしよう」

「いいぜ。ユークスの坊主には魔法で世話になっているからな」


 肉屋に色々と用意してもらい、インゲンのオーク肉炒めを作る。

 辺りに野菜炒めのいい匂いが立ち込める。


 客が肉屋にわんさか押し掛ける。

 ユークスと俺は肉屋を手伝った。

 客が途絶えたので。


「さあ、食おう」


 肉の旨味がインゲンに絡んでとても美味しい。

 肉のこってりとした味と、インゲンのさっぱりした味が絶妙にマッチして、一体になっている。

 ユークスを見ると肉屋に貰ったパンに挟んで頬張っていた。


 俺も真似してみた。

 パンに野菜炒めの汁が染み込んでこれまた美味い。

 俺は瞬く間に食いきった。


「このインゲンというのは美味いな。天国の野菜か。また持って来れば肉屋で売ってやるぞ」

「おじちゃん?」

「そうだな。また来るから頼む」


 ユークスを助けたのだから、これから面倒をみてやらないと。

 最低限の生活ぐらいはできる様にしてやりたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る