最強の家庭菜園ダンジョン~最強のダンジョンとは準備期間のダンジョンだ。入口がなければ攻略出来ない。俺のダンジョンは永遠に準備が終わらない。畑に終りなんてないからな~

喰寝丸太

第1話 雷と、異世界転移と、ジャガバタ

 また、やられている。

 頭の黒いネズミの仕業だ。


 無人販売用に作った空っぽの棚を見て独りごちた。

 いかんね。

 リラックス、リラックス。

 あれは頭の黒いネズミの仕業。


 野生の畜生に何を言っても始まらない。

 料金箱を壊されないだけまし。

 そう自分に言い聞かせた。


 俺は畑山はたけやま創太そうた

 体を壊してサラリーマンからリタイヤした。

 体を壊したといっても大した事はない。

 ストレスが掛かると下痢したり、少し体の調子が悪くなったりするだけだ。

 でも10分おきにトイレに駆け込んでいたら、仕事にはならない。

 医者に相談したら、仕事を辞めなさいと言われた。


 それで、田舎に引っ込んで、民家を借りて庭の畑で家庭菜園を始めた。

 貯金がなくなるまで、スローライフを満喫しながら、これからの事を考えようと思っている。

 最初は苦戦した家庭菜園も、今では近所におすそ分けしたり、無人店舗に出せるぐらいになった。


 今の季節は梅雨で空からは雨が今にも降ってきそう。

 おっと、ゴロゴロ言ってるな。

 ドシャアバリバリと音がした。

 ひぇー、近いな。


 雹でも降ると家庭菜園の野菜に傷がついてしまう。

 俺は慌ててシートの準備をした。


 俺の家の間取りは3部屋あって、和室の縁側の向こうは裏庭になっている。

 裏庭だが、日当たりがとても良い。

 そして裏庭には家庭菜園がある。


 ぽつりぽつりと雨が降り出した。

 雷が鳴るようだと梅雨明けも近いな。

 やがて雨は土砂降りになった。


 雹が降ったら大急ぎだ。

 俺は目を凝らして、縁側で家庭菜園を睨んでいた。


 爆発音がして、視界が真っ白になった。

 雷が家庭菜園に落ちたようだ。

 おいおい、作物は無事か。

 今の俺の生き甲斐なんだぞ。


 目が回復すると、いつもと変わらない家庭菜園があった。

 良かった。

 これが駄目になったら、号泣する自信がある。

 雨も上がったので、今日食う分のジャガイモを1株掘る。


 畑の隅にある地蔵にジャガイモ1個をお供えして手を合わす。

 いつもはお供えなんかしない。

 今日は不思議な事があったから、神仏に守ってもらいたいと思っただけだ。

 困った時の神頼みって言うじゃないか。


 畑の境界が突如、絨毯に変わって、風景は室内に。

 おいおい、勘弁してくれよ。

 今度は何だ。


 畑の境界で、大きい斧を持った中世の兵士が騒いでいる。

 兵士の身長は俺の胸ぐらいしかない。

 だが、髭が生えて、横幅が広い。

 成人はしているだろう。


 昔の人は身長が低かったと何かで読んだ。

 きっとそうだな。


「中に入れろ! ぶっ殺してやる!」


 兵士が叫んでいる。

 だが、畑には入れないみたいだ。


「皆の者、落ち着け」


 玉座に腰かけた偉そうな人が声を発した。

 兵士は騒ぐのを辞めて静かになった。


 話し合いにいけたら良いと思う。

 暴力沙汰は勘弁だ。


 偉そうな人が玉座から降りて畑の境界に来る。


「そちは何者だ?」


 話し掛けているんだから答えないと。


創太そうたという者だ。普通の人間だと思う」

「ドワーフ王のエイザークだ。そなたも困っておる様子。わしも困っておる。謁見の間を畑にされたらたまらん」


 知るか。

 俺のせいじゃない。

 落ちた雷と怪異に言ってくれよ。

 だが、ここで暴言は吐けない。

 この後にどんな事になるか分からないからだ。


「お互いに事態が収束する努力をしよう」

「ふむ、よかろう」


 そうだ。

 贈り物をしよう。

 いくらか相手の俺への印象も良くなるに違いない。


 料理は苦手だから、酒だな。

 酒でもてなそう。

 家に入り冷蔵庫を開ける。

 うん?


 冷蔵庫の灯りが点いたぞ。

 電気が来ているのか。

 ビールを手に玄関に回ってみると日本の田舎の街並みが見える。

 外に出ても平気だ。

 家庭菜園はどうなっている。

 外からぐるりと回って家庭菜園に入る。


 背景が謁見室に切り替わった。

 うおっ、どうなっている。

 ビールを渡そうとしたんだが、渡せない事が判明。


「ふむ、考えるにダンジョン化しとるな」


 何ですと。

 ダンジョンというとここは異世界か。

 魔法とかあるのかな少しワクワクしてきた。


「詳しく」

「ダンジョンは空間が重なり合って出来ておる。持ち出せるのは戦利品だけだ」


 うーん、何かと戦わないといけないのかな。

 俺がモンスター役じゃないだろうな。

 倒されるのは御免だ。


 農家は土と格闘して自然と戦って、農作物という戦利品を得る。

 そういう考えが頭に浮かんだ。


 さっき掘ったジャガイモを渡す。

 おっ渡せたぞ。


 野菜が戦利品か。

 誰か倒されたわけじゃないのが良い。


「ジャガイモは、蒸かしてバターを載せると美味いぞ」


 渡したジャガイモが運ばれていく。

 俺もジャガバタを食おう。

 蒸し器で芋を蒸かしてバターを載せた。

 縁側に出て、ビールを手に乾杯。


 ホクホクのジャガイモにバターが溶けて染み込む。

 バターの香りが一面に広がり食欲をそそる。

 箸でぐさぐさと突き入れて、更にバターを染み込ませる。

 箸で摘まみふうふうと息で冷やしてぱくり。


 そうそう、この味。

 新じゃがの味だ。

 この季節しか味わえない。


 兵士達とエイザークが、やはりジャガバタを食って酒を飲んでた。

 エイザークが、境界に来る。


 俺が近寄ると。


「一緒に酒宴を囲んだ友をドワーフは忘れない。王の名において誓う。貴君を友として認定しよう」

「おう。よろしくな」

「今夜は大いに飲もう。ところでジャガイモとやらはまだあるかな。わしはジャガバタあれが気に入った」


 王様と友達になった。

 縁側に腰かけてジャガバターをつまみにゆっくりと飲む。

 王様と兵士も飲んでいるようだった。


 そうだ。

 地蔵様にあげたのを下ろさないと。

 捨てたりはしない。

 ありがたく頂く。


 地蔵様のジャガイモを手に取ると、空にまん丸のお月様がある。

 背景が日本の物に戻ったようだ。

 鈍い俺でも分かる。

 地蔵様の悪戯だったのだろう。

 そうに違いない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る