第18話 ユーリアシェとランセルド

近衛騎士が退室し、温室にはユーリアシェと片膝をつき頭を下げたままのランセルドが残った。


「せっかくの休憩を無礼者達が潰していくね。わたくしには休息は不要ということかな?」


嫌味をふんだんに含めた質問をする。


「申し訳ありません」


「謝るくらいなら最初からしなければいい。それともわたくしならどんなことをしても許すと思っているから無礼な態度になるのだろうか?」


「・・・」


ランセルドは答えず沈黙が続く。

先に耐えられなくなったのはユーリアシェのほうだった。


「座りなさい」


「宜しいでしょうか?」


顔を上げ真っ直ぐに見つめてくる。今日は騎士服ではなくベージュのシャツに黒のスラックス、いつもは後ろに撫で付けているダークブロンドの髪を下ろしていた。


「ここまで言っても下がらないなら、誰かが許可を与えたのだろう?わたくしの命令など意にも介さないのだから。」


「国王陛下からユーリアシェ姫とお会いするようにと。姫の気持ちを無下にするつもりはありませんでしたが、時間がありませんでした。先程の騎士には無理を通したのです。」


確かに国王からの許可ならユーリアシェの言葉など塵ほどの価値もない。


「王太女殿下と呼びなさい。それすら・・・・も陛下から許されているからとできないの?」 


「失礼致しました。王太女殿下」


「用件は何?早く言いなさい」


話を進めてさっさと帰ってもらおう。


「3日後の謁見に呼ばれたとお聞きしました。私も出席しますのでご一緒に行きませんか?」


「そなたはリーシェの護衛騎士よ。リーシェを守りなさい。わたくしは一人で行くわ」


「しかし」


続く言葉を笑顔で遮る。


「一人で行くと言ってるの。あなたの手は取らない・・・・・・・・・・。」


「殿下っ!」


温室にはいってから1度も崩れなかった声音が乱れるのを聞き、国王がこの男に婚約の打診をしたことがわかった。


娘には伝えなかったのにーーー


微笑みを深くしてランセルドを見る。


「そなたは愚かではない。わたくしの言葉を理解できるわね」


愕然としてユーリアシェを見つめるが、ランセルドの気持ちなどどうでも良かった。あちらがダメならこちらと人をなんだと思っているのか。


「話は終わりよ。下がりなさい」


「姫っ!」


「まだ王太女だ!忘れるな!!」


ユーリアシェは荒ぶる感情のまま怒鳴った。

今でも自分を慕っている少女ままだと思っているのだろうか?

ユーリアシェが好意を持っていることを知りながら知らぬ振りを続けていたくせに。

憎しみを隠さずに睨み付ければ縋るような顔で暫く見つめていたが、諦めたように立ち上がり頭を下げる。


「お時間をとって頂きありがとうございました」


ランセルドが出ていきゆっくりと息を吐く。



運命の日が足音を響かせながら近づいてきた。

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