第9話ハルシュ地方(4)
「もうよろしいですか?我々は殿下と違って忙しいんですよ。」
ユーリアシェが許可も出していないのにエグル達が立ち上がる。
「座れ。」
怒りを込めながら言うと、何を言われたのかわからないようで「は?」と間抜けな声を出す。
「聞こえなかったか?座れと言ったのだ。何度も言わせるな。」
「なんだと!」
「王女だから話を聞いてやれば!」
「そうだ。このリグスタ王国の第一王女であり王太女だ。そのわたくしに対してどれだけの無礼を働いているかお前達はわかっているのか?」
ユーリアシェゆっくりと周りを見渡す。文官長であるリグバは気がついたようにはっとなる。
「国法により、騎士団もしくはそれに準ずる兵団を持つ領地は賊や災害等がおこった際、優先的に対処する義務がある。お前達は
怒気を放ったまま笑顔で聞く。
ユーリアシェの言葉が理解できたとたん、エグル以外の者達は一斉に床に跪いた。
「申し訳ありません!」
エグルはやっと理解したが世間知らずと思っている姫に頭を下げる事はしない。俯き拳を震わせるだけだ。
いまだに己の立場がわかっていない馬鹿だとある意味感心する。
「立ちなさい」
先程からの殊勝な態度を一変し、傲岸に告げる。
その様を見て、彼らは自分達の勘違いに気付いた。目の前にいるのは優しい王女ではなく、この国の女王となる尊き女性なのだと。
「エグル・ドゥ・ベーシュ、騎士団長の任を一時解き自宅での謹慎を命じる。デグス・ドゥ・ラニバも同じく謹慎を命じる。後任は今から騎士団と領主文官室に行き任命するので、役職を全員集めなさい。任命後はすぐに復旧作業に取りかかるので手の空いているものに準備させるように」
「御意!」
皆が出ていき(エグルは引きずられるように退室した)護衛のエルミンと執事のイグルス3人になった。斜め後ろにいるエルミンに向かって冷然と言う。
「そなたも出ていきなさい」
「殿下をお一人にはできません!」
エルミンは驚いた様に言ってきた。その言葉をユーリアシェは冷笑で返す。
「護衛の役割もわからないものに居られても意味がない。」
主が不敬を働かれても何一つしなかったことを暗に伝えれば、言い返すことも出来ずに一礼して退室する。
「さて、イグルス。そなたの思惑が知りたい。ここまでの沈黙の対価に何を求めているかを。」
その言葉を待っていたかのように伏せていた目を上げた。その目の奥に強い光が灯っていた。
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