第7話ハルシュ地方(2)
領主館に着くと先触れを出していたのでスムーズに応接室に通され領主の家族が揃って挨拶する。
「王太女殿下なおかれましては、わざわざこのような田舎に御来臨下さり、恭悦にございます。」
揉み手をしてヘラヘラと頭を下げるハルシュ地方領主、イリガー・ドゥ・ベーシュ子爵を座ったままユーリアシェ冷めた目で見る。
「今回は土砂崩れの対応の為に来たので、歓待は不要だ。騎士団と文官の長と今回の災害の担当を呼んで会議をする。領主館の会議室を使わせてもらう。」
イリガーは驚いた様に揉み手のまま固まった。
ユーリアシェはその様子に苛立ち再度告げる。
「なにをしている。早く動きなさい!」
その言葉に何を言われたかようやく理解したイリガーは慌ててユーリアシェを止めた。
「お、お待ちください!土砂崩れの対策はしております。別に今さら会議などーーー」
バンッ!!
ユーリアシェがテーブルを叩いたせいでイリガーの言葉は続けることができなかった。
「対策?村人だけで道具も使わず作業をすることが対策と言えるのか!?何のために国境に面してもいないのに騎士団を衛戍させているのか!賊や災害等の平民だけでは対処出来ない事に対応する為!!そなたの自己満足のお飾りの為に騎士団を置いている訳ではない!!」
立ち上がり怒気を発しながらイリガーを睨む。
未だ自分の立場がわからない男もユーリアシェを憎々しげに睨み返してくる。
「領主の立場にありながら領民を保護せず民を使い捨てのように扱うそなたに領主の資格があるのか疑問です。
イリガー・ドゥ・ベーシュ子爵、自室で謹慎しなさい。追って沙汰を下す。」
イリガーはユーリアシェの言葉を鼻で笑い飛ばした。
「貴女にそんな権限があるとでも?ハルシュ地方は代々ベーシュ一族が治めてきたのですぞ!」
この男は今までベーシュ一族が治めたからこれからもその権利が続くと思っている。義務も果たしていないのにーーー
そして一時の感情でユーリアシェが越権行為をしていると考えているのだ。
どこまでも愚かな男だ。
「今回の件はわたくしに一任されている。そなたの謹慎くらいはわたくしの裁量でどうとでもなる。夫人やご子息達もこの館から勝手に出ないように。ベーシュ子爵とは一切の接触を禁止します。」
「なっ!何を!!」
「ユラー、そなたがベーシュ子爵の監視を。わたくしの護衛が戻ってきたら交代して。」
ユーリアシェは部屋の隅に控えていた40代位の男に声をかける。
「そなたの名は?」
男は綺麗に腰を折り挨拶する。
「ベーシュ家の執事をしております、イグルスと申します。」
「ではイグルス。直ちに騎士団と文官の長とこの件の担当者を会議室に集めて」
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