240話 入学式

 私の部屋にエドワード殿下が来てから数日が経った。

 ついに、今日は王立学園の入学式の日だ。

 私は第三学年に進級する。


(入学式の主役ではないけど、改めて気を引き締めていかないとね)


 ……そう言えば、エドワード殿下に依頼されたお手伝いって、結局何をすれば良かったのだろう?

 式前の椅子並べとかを手伝おうとしたけど、私はお呼びじゃなかったみたいなんだよね。

 係の女生徒に恐縮されつつも手伝いを拒否されてしまった。


「――であるからして、王立学園の規則を順守し、正しい心と強い精神を持った生徒になることを期待しており――」


 王立学園の大講堂で校長先生の挨拶が行われる。

 長いスピーチに私は眠気を覚え始めていた。


(新入生も大変だねぇ……)


 心の中で呟きながら、私はあくびを堪える。

 式が始まってから、もう十分以上が経過しているが、あまり退屈な時間だ。

 私がボーッとしていると――


「紹介に預かりました、僕が今年の生徒会長であるニコラスです。新入生諸君、入学おめでとうございます。心から歓迎します」


 男子生徒が壇上に上がり、話し始めた。

 初めて見る人だ。


(いや……どこかで見覚えのあるような……。それに、名前も……)


 気の所為かな?

 まぁ、生徒会長になるような人だから、これまでにも何かの行事とかで見たことがあるのだろう。

 堂々とし、爽やかな印象を受ける。


「――続いて、この俺が副会長のエドワードだ。新入生の諸君、入学おめでとう」


「おっ」


 私は思わず声を出してしまう。

 そして慌てて口を押さえた。


(エドワード殿下、遠目で見るとやっぱり格好いいねぇ……。乙女の部屋に乱入してきて、制服のボタンで気絶した人とは思えないわ)


 私は心の中でクスクスと笑う。

 乙女ゲーム『恋の学園ファンタジー ~ドキドキ・ラブリー・ラブ~』において、攻略対象のイケメンは四人いる。

 エドワード王子、義弟フレッド、平民上がりの剣士カイン、氷魔法の名門出のオスカーだ。

 その中でも、エドワード王子のルートが王道と言われていた。

 あくまでゲームの話ではあるのだけれど、私としても少しは意識してしまう。


「俺が副会長に就任したからには、この王立学園をより良いものにしてやる! 楽しみにしていろ!!」


 エドワード殿下が熱く語る。

 彼は次期国王。

 学園にいる間に、いろいろな経験をしておくのは大切だろう。

 そうして、エドワード殿下が語っている最中だった。


「――エドワード兄貴。就任の挨拶はもうやめろ。続いては退任の挨拶だぜ!」


 不意にそんな声がした。

 新入生の中からである。

 そして、その声の主は壇上に上がってきた。


「ふん。我が弟アレクサンダーよ。やはり入学式で大人しくしているような男ではないか」


「当然だ。この俺様は、誰にも媚びるつもりはない」


 壇上に上がってきたのは、第二王子アレクサンダーだった。

 彼は野心家の性格で、兄であるエドワード王子のことを良く思っていないらしい。


「しかし、副会長である俺に退任しろと? 何を馬鹿なことを……」


「馬鹿ではない。俺様は既に、ネオ生徒会のメンバーを集めている。――お前ら、出てこい!!」


 第二王子が叫ぶと、数人の生徒が動き出した。

 その内の一人の女子生徒が壇上に上がってきた。

 そして、エドワード殿下を睨み付ける。


「おーっほほほ! エドワード様、ご機嫌麗しゅう。わたくしは、第二王子アレクサンダー様の婚約者、アンジェリカと申しますわ!!」


「知っている。だが、お前は今年の新入生だ。第四学年以上で構成される生徒会のメンバーにはなれないはずだが?」


「ええ、慣例ではその通りでございますわ。でも、わたくし達には関係ございませんことよ? アレクサンダー様は、慣例に囚われない御方ですから」


 彼女はそう宣言すると、ニヤリと笑みを浮かべる。

 場が混沌としてきたな……。

 第二王子アレクサンダーと、その婚約者アンジェリカ……。

 そして、エドワード殿下の前に挨拶していた生徒会長のニコラス。

 それぞれ、どこかで聞いたことのあるような……。


「むっ! お前も壇上に上がるつもりか!? ええい、これ以上の騒動は――」


「くくっ! そんな動きで――儂を止められると思うたか?」


「なにっ!?」


 先生の制止をすり抜け、また別の男子生徒が壇上に上がる。

 彼は悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。


「はははっ!! 儂は隣国から留学してきた、ヤマトじゃ! これでも王子じゃが、そのようなことは気にせず、自由に決闘を挑んでくるがよいぞ!!」


「き、貴様は……!?」


 エドワード殿下が思わず声を上げる。

 隣国からの留学生らしい男子生徒――ヤマトも、どこかで聞いたことのあるような名前だ。


「お腹、空いた……」


「なに? ……少し待っていてくれ。今は騒動が起こっていてな……」


「……駄目だよ。待てない」


「なっ……! 壇上に上がろうとするな! 危ないぞ!!」


 また別のところでは、先生の制止をものともせず男子生徒が壇上に上がっていった。

 彼はとても背が低い。

 もしかすると、新入生で一番背が低いのではなかろうか。


(うーん……。どこかで見たことがあるような気がするんだけど……)


 彼らを見て、私は記憶を辿ろうとするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る