97話 イザベラ様のドレス

 わたしは酔ってしまったイザベラ様の介抱をしています。

 彼女は気持ちよさそうに、わたしの膝の上で寝ておられます。


「うーん……。むにゃむにゃ……。フレッド~」


「姉上!? 起きていらっしゃったんですか?」


「ふぇへへ……。可愛い弟とデートできて嬉しいわぁ~。私、幸せよぉ~」


 イザベラ様はとても嬉しそうに寝言を言っておられます。


(ちっ!)


 わたしは内心で思わず舌打ちしてしまいました。

 弟だからといって、イザベラ様から特別扱いをされて……。

 羨ましいです。


「ふぇへへ~。アリシアさん。あなたもとても可愛くて素敵よ。大好きぃ~」


「あ、ありがとうございます。光栄です」


「姉上はいつもこうだ。僕だけじゃなく皆にも優しい。僕はそれが気に食わないんだ!」


 フレッドさんは嫉妬しているのですね。

 こんなに感情的なフレッドさんは初めて見ました。

 イザベラ様は誰に対しても優しく平等に接します。

 彼女に思いを寄せる人は何人もいますが、彼女はそのどれにも応えていない。

 まるで何かを恐れるかのように、一歩引いたような態度を取り続けていました。


「アリシアさん~」


「きゃっ!」


 そして、わたしの膝の上で寝返りを打たれると、そのままぎゅっと抱きついてこられました。

 わたしは慌ててイザベラ様を抱き留めます。


(はぅあ! イザベラ様、柔らかいです。それに良い匂いがします。イザベラ様の匂いとお酒の匂いが混じって、わたしもどうにかなっちゃいそう……)


 わたしがそんなことを思ったときでした。


「うっ。オロロロ……」


「え? わぁっ!? い、イザベラ様!?」


 なんと、イザベラ様の口から液体が出てきたのです。

 それはわたしが着ていたドレスを汚してしまいました。


「あ、姉上はもう! アリシア殿になんということを!!」


 フレッドさんが怒っています。


「い、いえ。これぐらいは大丈夫です。イザベラ様のなら、別に汚くは……」


「汚いですよ、さすがに! ここは僕が掃除しておきます。姉上の様子にも目を光らせておくので、アリシア殿は一度着替えてきてください」


「え? でも、せっかくの秋祭りが……」


「そんなドレスでは楽しめるものも楽しめないでしょう! こんなこともあろうかと、アディントン侯爵家の執事とメイドを近場に待機させてあります。僕と姉上の名前を出せば、対応してくれるはずです」


「は、はぁ。ありがとうございます」


 そこまで言うなら、利用させてもらおうかなぁ。

 寮まで帰ったら、もう秋祭りも終わってしまう。

 でも近くに待機してくれているのなら、着替えた後にまた戻ってくることもできるもんね。


「姉上のために用意していた替えのドレスもあります。よろしければ、そちらに着替えてきてください。姉上も怒ったりはしないでしょう」


「なっ!? イザベラ様のドレスですか!?」


「はい。まぁ、メインで着ているものではありませんが、それなりのものを用意して……」


「すぐに行ってきますっ! その間、イザベラ様のことは任せましたよ! くれぐれも余計なことはしないように!!」


 わたしは颯爽と休憩所を後にします。

 今思えば、これが判断ミスだったのです……。

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