86話 天剣斬・百式

 私はエドワード殿下とカインに二人がかりで勝負を挑まれている。


(ここは勝ちを譲ってもいいのだけれど……。二人共かなり本気だし、それはさすがに失礼ね)


 彼らの思いに気付かないほど鈍感な私ではない。

 私を想って剣技を高めてくれた二人に対して、手を抜いては失礼だ。

 それに、私のことを化け物扱いしてくれたお礼もしないとね。


「行きますわよ、殿下、カイン」


「ああ」


「来いっ、イザベラ嬢!」


 カインの言葉を合図に、私達は同時に動き出す。


「くらいなさい! 【天剣斬・百式】!!」


 私は一瞬にして、百本の光の剣を生み出して飛ばす。


「なっ!?」


「くそっ!」


 二人は咄嵯に避ける。

 しかし、全ての攻撃を避けきれず、肩や腕にかすり傷を負う。


「まだまだですわよ!」


 私は両手に魔力を込め、一気に解き放つ。


「【覇王の光弾】!!」


 私の手から放たれた無数の光線は、縦横無尽に駆け巡りながら二人を襲う。


「ぐおおおっ!?」


「ぐうっ!?」


 二人の身体に次々と命中し、吹き飛ばしていく。


「「…………」」


 いつの間にか集まっていたギャラリー達が、しんと静まり返る。

 やがて、パラパラと拍手の音が鳴り始めたかと思うと、それは瞬く間に大きくなり、大歓声へと変わった。


「きゃー!! すごいです、イザベラ様ー!!」


「カッコイイー!!」


「素敵ですわぁ!!」


「やっぱり俺達の守り神は最強だぜ!」


「いいぞー、武神イザベラ様!」


 私は笑顔を浮かべ、小さく手を振った。

 何だか聞き捨てならない呼び方をされた気がするけど、聞かなかったことにしよう。


「ふう……」


 私は一仕事終えた気分になり、額の汗を拭う。


「……うう」


「ちくしょう……」


 そんな私とは対照的に、ボロ雑巾のように転がっているエドワード殿下とカインは、悔しそうにうめいている。


「すみません。お二人とも強かったので、手加減ができませんでした」


「くっ! 俺の努力もまだまだ足りなかったということか……」


「イザベラ嬢、強すぎんだろ……。がふっ!」


 二人共、それなりにダメージは大きいようだ。

 これ以上戦うのは難しいだろう。


「それでは、戦いはこれで終わりということで」


「……ああ。こうも力の差を見せつけられてはな。秋祭りの件を食い下がるつもりだったが、今回は諦めることにしよう」


「へへ。イザベラ嬢は存分に楽しんでくれよ。俺はその間に、少しでも鍛えておくからよ」


 二人が敗北を認めてくれる。

 よく分からないけど、秋祭りのことを諦めていなかった様子だ。

 結果的には良かったのかな?

 全校生徒レベルで目立ってしまっていることは、なかったことにしたいけど……。


「イザベラ様ー!」


「うおおおぉっ!」


「素敵ー!」


 まだ聞こえてくる歓声は聞こえなかったことにして、私はその場を離れたのだった。

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