33話 忠告【アリシア視点】

「ううっ……。ひどいよぉ……。やっぱり、わたしなんかじゃ無理だよぉ……」


 わたしは、校舎の裏で座り込んでいた。


「貴族の皆さん、怖すぎる……。わたしが何をしたって言うの……?」


 入学式の当日を迎えて、少しはしゃいでしまったのは事実だ。

 だけど、それだけであんな風に言われるなんて思ってなかった。


「もう、やだぁ。帰りたいよう」


 ママに楽をさせたかっただけなのに。

 ただ、ママに喜んでもらいたかっただけなのに。

 どうして、わたしはいつもうまくいかないんだろう。

 村でも、鈍くさいわたしは、みんなの足を引っ張っていた。

 たまたまわたしに魔法の適性があることが判明して、いつの間にかこの王立学園への入学手続きが進められていたのだ。


「このまま帰っちゃおうかな……」


 そんな考えが頭をよぎった時、不意に声がかけられた。


「こんなところで何をしているのですか? …………アリシア・ウォーカーさん」


「ひゃあっ!?」


 わたしは驚いて飛び上がった。

 振り向いた先に立っていたのは、一人の少女だった。

 美しい顔立ちの少女で、高貴な雰囲気を纏っている。


「ごめんね、驚かせるつもりはなかったのだけど……。私は、イザベラ・アディントンというの。イザベラと呼んでくださいね」


「はい、イザベラ様……」


 この人が貴族の中でどれくらい偉い人なのかは知らないけれど、たぶんかなり偉い人だ。

 雰囲気でわかる。

 思わず様付けで呼んでしまった。


「それで、アリシアさんはなぜここにいるのかしら? もうすぐ入学式が始まるわよ?」


「それは、その……」


 わたしは言葉に詰まってしまった。

 正直に話すと、また怒られるかもしれない。


「そろそろ講堂に向かった方がいいのではないかしら?」


「はい……」


「それと、私からも一つ忠告をさせてもらうわね。そのスカート丈は、あまり感心できないわ。貴女はまだ子供なのだし、もう少し長い方が可愛らしく見えると思うの。それに、髪飾りも付けていないみたいね。せっかく綺麗な髪をお持ちなんだから、きちんと手入れをしなくては駄目よ。化粧も覚えなさい。素材はすごくいいわ。そばかすさえ消せば、あなたは絶世の美女にだって見えるわよ」


「……はい」


 わたしは素直に返事をした。

 なぜかわからないけど、この人の言うことは正しいと思ったから。


「いい子ね」


 イザベラ様は微笑んでくれた。


「ほら、これを使いなさい。涙は人前では流さないものよ」


 そう言って、イザベラ様はハンカチを手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます」


「いえ、気にしないで」


 イザベラ様は優しく笑みを浮かべる。

 そして、そのまま踵を返した。


「あ、あの!」


 わたしは思わず呼び止めてしまった。


「どうしたのかしら?」


 イザベラ様は不思議そうな顔をする。


「イザベラ様はどうして、わたしに声をかけてくれたんですか? わたしなんて、半分は平民の出ですし、全然貴族っぽくないし……」


 わたしの言葉を聞いたイザベラ様は、ふっと表情を和らげた。


「別に大したことじゃないのよ。ただ、あなたがとても悲しげな目をしていたものだから、放っておくことができなかっただけ」


「え?」


 わたしは、自分がどんな目をしていたのか想像できなかった。


「それじゃあ、私は行くから。あなたには期待しているわよ。アリシアさん」


 そう言って、イザベラ様は去って行った。

 わたしは慌てて立ち上がり、その後姿を見送った。


「イザベラ・アディントン……様」


 名前を口にすると、不思議と勇気が出てきたような気がした。


「わたし、頑張ります!」


 貴族様にも、あんな素敵で優しい人がいるなんて。

 イザベラ様のように素敵な女性になりたいと、わたしは思った。

 そのために、それにママのためにも、この王立学園で頑張らないと。

 わたしはそう決意したのだった。

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