29話 ゴブリン退治

「大地よ、我が呼びかけに応えよ。その力をここに示し、敵を穿つ槍となれ。【ストーン・ジャベリン】!」


 岩の槍がゴブリンを貫く。


「水よ、我に仇なす者を貫く弾とならん。【ウォーター・ショット】!」


 水の弾丸が、別のゴブリンを撃ち抜く。


「……こんなものかな? とりあえず、村の近くにまで来ていたゴブリンは倒したよ」


「「「…………」」」


 私の魔法を見て、村の人達や護衛兵達は唖然としている。


「……お見事です、イザベラお嬢様」


 護衛兵の隊長が褒めてくれた。


「しかし、魔法をお使いになられるのは知っておりましたが、まさかこれほどとは……。以前拝見しました際には、もう少し威力が低かったような……」


「以前って?」


「エドワード殿下がアディントン侯爵領をお訪ねになられた時です。イザベラお嬢様がポーションの作成を実演なされて……」


「ああ、あの時か。もう四年も前じゃない。そりゃ、私だって成長するよ」


 私は平然とそう答える。

 私がバッドエンドの予知夢を見たのは七歳の時だ。

 『ドララ』の知識を活かして魔法の鍛錬や畑仕事に手を出してきた。

 だが、いくら知識はあっても、魔法の習得というものは一朝一夕でできることではない。

 エドワード殿下がアディントン侯爵領に来た時点で、私は九歳だった。

 正直なところ、まだまだ発展途上の状態であった。

 それからさらに四年。

 今の私は、ますます魔法の実力が向上している。


「さすがはイザベラお嬢様でございます。おみそれいたしました」


 隊長が尊敬の眼差しで見てくる。

 村人達も似たようなものだ。


「いや、それほどでも……。それより、まだ残っているゴブリンがいるはずだから、そっちを探さないとね」


 私は照れて頬を掻く。


「分かりました。村長の話では、巣が近くにあるとのことですので、そちらの方を重点的に探しましょう」


「了解。それでいこう」


 私たちは森の奥へと入っていく。

 しばらく進むと、洞窟のような場所を見つけた。

 中からはゴブリンの声が聞こえる。

 どうやらビンゴらしい。


「イザベラお嬢様。どうやら、先客が来られているようであります。入り口の方に、血痕が残されています」


「うわぁ、マジか。これまた面倒くさいなぁ。その人達が無事に片付けておいてくれればいいんだけど」


 私は頭を掻きながら呟く。

 だが、その願いは通じなかったようだ。

 洞窟の奥から、戦闘音と怒号が聞こえてくる。


「くそっ! ゴブリンキングがいるなんて聞いていないぞ!!」


「メイジやジェネラルまでいる! なぜこんなところに!!」


「知るか! とにかく逃げるぞ!」


「殿下をお守りしろ! 何としてでも退路を切り開くんだ!!」


 うーん。

 ゴブリンキングなんて言葉が聞こえてきたね。

 ゴブリンを掃討するために洞窟に攻め込んだら、思わぬ上位種に遭遇して錯乱している感じかなあ。

 これは、先客に任せておくわけにはいかなさそうだ。


「……仕方ない。私が行くしかないか」


「イザベラお嬢様!?」


 隊長が驚いたように叫ぶ。


「大丈夫だよ。私一人で十分。それに、早くしないと中の人達が危ない。この場にいる人の中で一番強いのは、間違いなく私だし」


「確かに、それはそうなのですが……」


 隊長は心配そうにこちらを見る。


「それに、聞こえなかった? ”殿下”とか言ってたよ。ということは王族がいるんだよ。だったら尚更急がないと」


「そ、そんなはずは……。い、いや、まさか本当に……?」


 隊長は事態を飲み込めていない様子だ。

 それもそうだ。

 まさか、王族がゴブリン退治をしているなんて、普通は思わない。

 私も同じ気持ちだ。

 だが、王族がいるいないに関わらず、少なくとも人がピンチに陥っているのは確かだ。


「じゃ、行ってくるね」


「あ、ちょっ……」


 隊長の返事を待たず、私は颯爽と駆け出す。

 ゴブリンキングかぁ。

 さくっと倒してしまおう。

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