22話 エドワード殿下とカインの近況
オスカーと始めて出会った夜会から、三か月が経過した。
「ふふふっ! ついに……ついに完成したわ! これが私のオリジナル氷魔法よ!!」
私は庭に出て叫ぶ。
「姉上、大きな声を出さないでください」
「あら、ごめんなさい。つい興奮してしまって」
フレッドに注意されてしまった。
「それで、どんな魔法が完成したんですか?」
「よくぞ聞いてくれたわね。それは……」
「それは?」
私はフレッドに向かって人差し指を立てた。
「内緒よ」
「またですか? 最近、ずっと秘密にしてますよね」
「いいじゃない。お楽しみは後に取っておくものよ」
「はぁ……。まあいいですけど」
フレッドは呆れた様子でため息をつく。
私はあの夜会でのオスカーの態度が気になっていた。
思わせぶりなことを言っておいて、話が婉曲的過ぎてよく分からない。
でも、何となくだけれど、放っておくと私のバッドエンドに繋がってしまうような気がした。
「それで、来週にはシルフォード伯爵領の視察を行うのでしたか?」
「ええ。お父様経由で頼んでいただきましたから。ようやく、先方の了解も得られてたと聞いているわ」
私はあれから、シルフォード伯爵家のこと、オスカー自身のことをいろいろと調べてみた。
その結果、彼の悩みのタネらしきものに見当がついたのだ。
確証を得るため、街の視察を行うことにしたのである。
(上手くいくといいのだけれど)
シルフォード伯爵領は王都からかなり離れている。
片道だけで一週間以上かかる距離だ。
失敗は許されない……というほどのものではないが、バッドエンド回避に向けて大きなロスが発生してしまう可能性がある。
できれば成功させたいところだ。
「ああ、そうそう。エドワード殿下からまたお手紙が来ていましたよ。”いい加減、俺の婚約者になってくれないか”ですって。僕が断っておきましょうか?」
フレッドは封筒に入った手紙をひらひらさせながら言った。
「……ちょっと! 勝手に手紙を見ないでちょうだい!」
「だって、僕の大切な姉上に変な虫が付かないか見張っておかないと……」
「殿下のことを変な虫呼ばわりって……。他所では言わないでよ。不敬罪で捕まっても知らないんだから」
「言葉の綾です。殿下がそうとは言っていません」
「言っているようなものでしょう。もう、仕方のない子なんだから」
私は呆れ顔で、フレッドを小突いた。
「でも、僕は本当に心配しているんですよ。姉上のこと。それに、エドワード殿下のこともね。最近は、あまり良くない噂を耳にしますから」
「良くない噂? 何かあったの?」
「ええ。何でも、入学した王立学園で、剣術では指南役の教師を倒し、魔法では競技用の的を粉砕したとかなんとか。その上、座学においても、全教科満点だとか」
「すごいわね。でも、それの何がマズイのかしら?」
聞いている限りでは、喜ばしいことしかしていないように思うけれど。
「やり過ぎているのですよ。エドワード殿下は、この国の第一王子です。能力を上げられるのは素晴らしいことですが、無理して体調を崩されでもしたら一大事です」
「なるほどねえ。なんでそんなに頑張っているんだろ?」
「……本気でそれを言っているのですか? 姉上」
フレッドにジト目で見られる。
「え? 何が?」
「……はあ。まあいいです。後は、カインさんからも手紙が来ていますよ」
フレッドは呆れ顔をしながら、話題を切り替えた。
「カインからね。……え、ひょっとしてその手紙も勝手に読んだの?」
「読んではいませんよ。ほら、未開封の状態でここにありますから。ただ、いつも同じ内容なので内容は分かりますけどね」
「うーん。それはそれでどうかと思うけれど……。とりあえず見せてくれる?」
私は少しドキドキしながら、手を差し出した。
「どうぞ」
フレッドは私に手紙を手渡す。
そこには、こんなことが書かれていた。
『イザベラ嬢へ。俺が王立学園に入学して三か月ってところだな。こっちは順調に暮らしている。イザベラ嬢が入学してくる日が待ち遠しいぜ。きっと立派な騎士になってみせるから、楽しみにしてろよな!』
「ふむふむ。相変わらず元気いっぱいね。カインらしいわ」
ここで、『ドララ』の主要登場人物の年齢関係を整理しておこう。
主人公アリシア、悪役令嬢イザベラ、氷魔法士オスカーが同学年だ。
エドワード殿下と騎士見習いカインはそれぞれ主人公の一つ上である。
義弟フレッドは主人公の一つ下だ。
今私が生きているこの時間軸でも、その年齢関係に変更はない。
私は現在十二歳で、来年に王立学園へ入学する。
エドワード殿下とカインは既に入学済みだ。
カインの手紙によると、今のところは平穏な学園生活を送っているらしい。
まあ、アリシアさんもまだ入学していないはずだしね。
(さあて。私が入学するまで、後九か月ってところね。その前に、オスカーの件を片付けておきたいわね)
私はそんなことを考えつつ、一週間後のシルフォード伯爵領の視察へ向けて準備を進めるのであった。
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