第9話 手掛かりを求めて

 思い当たる場所は、いくつかあった。その一つが処刑場。あそこには血がある。イオの言っていた『薬』を使われていたのなら、血の中に薬の成分があるはず。それと、あそこには待機室があるらしい。そこに行けば、メモなどが見つかるかもしれない。とりあえず、手掛かりがありそうな、あの処刑場に向かった。


 ルートはさっき通った道と同じで、そこから下に繋がる通路がある。その通路を通って、一番下まで行った。下に着くと、思ったより広く、多くの人が見れるような造りだった。処刑された位置に近づいた。血は固まっていたりしていた。周囲はまだ赤い部分があり、血の量が多いことが分かる。固まった血をイオが、布で包み袋に入れた。


 その後、男が現れた道に行き、更に奥に行く。すると、いくつか分岐した道に着いた。イオの案内で右側の通路を選択した。中は薄暗く、所々ランプが付いていて、明るいがほとんどが消えている。

 しばらく歩くと、扉が現れ、そこが待機室だと察した。扉は鍵がかかっていた。


「鍵がかかっているね。一度鍵を取りに行ったほうが…。」

「その必要はありません。マスターキーがあるので、それで入りましょう。」


ガチャッと開く音がして、中に入る。中には椅子と机だけ。本当にただ待機するだけの部屋だと、誰もが思う感じだった。


「何もありませんね。カルマ様。」

「いや、まだ何かあるかも。」

椅子と机の方に近づいた。机の上には…、当然何もない。引き出しもない。手掛かりは無さそうだ。念のため、机の裏を見る。すると、何か引っ掻いたような跡がある。よく見ると、文字?になっている。

そこには、こう書かれていた。

『ゆるさない のろってやる あのきぞくを』

直すと、『赦さない、呪ってやる、あの貴族を』となる。ここの文だけ見ると、貴族というのは(僕と姉さんの事か?)と思う。結局、貴族を狙っていた事には変わりがないという事か。

 椅子の裏や壁も見たが、何もなかった。待機室だけは、あのメッセージだけだけど、情報が得られた。他に入った部屋はあるかと聞いたら、『牢獄に入れられる』と返ってきたので、次は牢獄に向かう。

 きた道を戻り、あの分岐した道に来た。今度は行かなかった方の通路を通ると、そのまま牢獄に繋がるという。複雑な構造だと思った。しばらく歩くと、部屋の雰囲気がガラッと変わった。洞窟っぽいような壁。おそらく、ここが牢獄だろう。


 通路の中央付近に階段があり、その目の前の牢獄に男は入っていたという。扉は勿論閉まっている。流石に、イオも鍵は持っていないだろう。そう思っていたら、また鍵を持っていた。


「それって…。」

「はい。牢獄の鍵です。」

「普通に思ったんだけど、何でそんな物持ってるの?」

「昨日夜に、あの男を尋問しに行ったからです。」

夜と言ったら、僕が寝た後か。知らないところでそんな事をやっていたなんて。

 扉の鍵が開き、開くとキーっと高い音がなり、中に入る。中には、拷問道具らしき物がそのまま放置され、ここにも血が飛び散っていた。想像するだけで、かなり悲惨なことをされたのは間違いないだろう。しかし、処刑の時は傷なんて見当たらなかった。


「拷問された後に回復魔法で治しているのです。」

イオが言った。拷問されたら、そのままの状態でいいと思ったが、(なぜそうする?)と疑問に思う。

「一種の拷問です。拷問をされ、治され、拷問と繰り返しているのです。」

「酷すぎる…。不死身の体みたいじゃないか。」

「はい。なのでこの拷問方法は『無限アンフィニ』と呼ばれ、罪人達の中では、一番と言っていいほど恐れられています。」

こんな拷問が存在したなんて、思いたくないと思った。回復というのがあるからできる拷問方法。僕には残酷で、非人道的な方法だと思った。


 ここにも机と椅子があったが、今度は引き出しがあった。机の上にはペンが置いてあり、何かメッセージがあると推測した。引き出しを引くと、一枚のメモらしきものが、クシャクシャの状態でそこにあった。広げると、乱雑な字で何か書いてある。

『あくま あくま あいつはにんげんじゃない』

その後は、掠れすぎていて読めない。見えなくもない字は一応ある。見た感じ、『い』っぽいし『こ』っぽい、そのような読みが混ざったような感じだった。不確定なため、とりあえずそこは含まず、あのメッセージを考えた。


 『悪魔、悪魔、あいつは人間じゃない』

何とも意味深な文。待機室では、『貴族』とあったが、今度は『悪魔』とある。普通に考えたとして、もし悪魔がいたら、既に被害は街にも出てるはず。そうすると、ここでの『悪魔』は表現となる。

 まとめると『悪魔みたいな貴族が王宮内にいる』となる。イオもこれに対しては、全く同じ考えであった。一度考えをまとめたいため、自分の部屋に戻った。



 部屋に戻り、机に座った。紙とペンを用意して、早速まとめ始めた。

・処刑場の待機室では、『貴族』という文字があった

・牢獄では、『悪魔』という表現を使って、人物の不可解さを表していた

・これらの事をまとめると、『王宮内にその貴族がいる可能性が高い』事。

しかし、僕が今まであった人の中で、そんな人物には見覚えがない。手掛かりを掴むために、一度家族構成を書き出した。

 この国の王である父。母もいた。ミリア姉さん。僕。弟のセルア。僕たち兄弟にはそれぞれメイドが付いていること。

 他にも、死刑執行人のヴァンパ。平民のユウ君。お店の人。それくらいだ。

 ここから一人ずつ、選択肢から外していく。確実に消えるのが、店の人、ユウ君、ヴァンパ。先に言った二人は、街に住んでいるため、ほぼない。ヴァンパも死刑を執行しただけ。他のメイドは除外するそうすると、僕たち家族だけになった。姉さんが一番可能性が低い。僕と行動していたことが多い、薬の事も知らなかったからだ。

 母は、一緒に食事をしていた事くらいだし、父は仕事が忙しい様子。その情報はイオから教えてもらった。そう考えてると、残るは『セルア』。食事の時に見かけたが、昨日は話してない。今日が初めて話した。

 逆になぜ、今まで話さなかったのか。今になって疑問に思った。多分、男の言っていた『あいつ』はセルアと結論が出た。


「イオ、最近セルアっておかしな行動とかしてない?」

「してないと思いますが。そうですね、順を追ってまとめていくと、セルア様が怪しくなりますね。ですが、年齢が気になります。ここまで計画ができるのでしょうか?」

確かに、年齢が引っかかる。セルアは僕の一つ下。そこまで出来るとは考えにくい。それでも確かめる事で何か分かるかもしれない。部屋で寝ていると言ってた。今すぐに、セルアの元へ行った。



 セルアの部屋は、僕の部屋から東の方にあるとイオが言った。つまり、部屋を出て右に行けば着くことができる。そして、部屋の前まで来た。

 コンコンコン。と三回ノックした。

「セルアー。今いるか?」

返事は返ってこなかった。まだ、寝ているのか。このままここにいてもらちが明かないので、部屋に入ることにした。

「入るぞー。」

一言言って、入った。しかし、セルアの姿はなかった。怪しさが増した。


「イオ、いないって事は。」

「確かに、怪しいですね。しかし、トイレに行っている可能性もあります。」

そう話していると、後ろから声がした。あの幼い声、セルアだ。


「兄さん、どうしたのですか。それにイオまできて。」

「せっ、セルアか。いないからビックリしたよ。あのさ、聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

「なぁに?」

「今回、処刑された男の人と何か関係とかあった?」

さぁ、何て答える?この場の緊張が高まった。自分の唾液をゴクンと飲み、セルアの回答を待った。


「処刑された男って、誰?ぼく、そんな人知らないよ。それより今日って、しょけいがあったんだね。だから人が少なかったんだね。」

「えっ。今日処刑があるって知らなかったの?」

「ぼくは、わるい人をばっせる日ってきいたけど…。」

この反応、処刑が行われたと知らない様子だった。処刑という言葉を使われず、罰せる日って他のメイドが説明したのか。しかし、僕は話を続ける。次に『あの紙』を目の前に見せた。セルアは目を大きくして紙を見た。すると、少し口元が動いたのが見えた。僕はその行動を見逃さなかった。


「何か知っているのか!?」

「ごめんなさい、兄さん。ぼく、これが何なのか全然わからないよ。」

嘘だろ?一番可能性があったセルアが、何も知らないなんて。これ以上探っても無意味と判断し、部屋に戻ることにした。


「じゃあ、部屋戻るよ。変な事聞いて悪かったな。」

「ぜんぜん気にしてないよ。ぼくもへやにもどるね。」

そう言って、それぞれ部屋に戻った。


(じゃあね、兄さん。)

 少し離れたところで、そう聞こえた。すぐに振り向くと、セルアの姿はなかった。気のせいかもしれない。あまり気にせず、止まった足をもう一度動かした。


「結局、何も掴めなかったね。残っているのは、男の血だけか。これに掛けるしかないね、イオ。」

「そうですね、カルマ様。おかしくなった男が幻覚を見た、という可能性もありますね。」

「幻覚か。無くはない可能性だけど。イオ、セルアが何か変だった事に気がついた?」

「私が感じたのは、普段と話し方が少し変わっていたような気がします。申し訳ないのですが、根拠はありません。」

「僕も根拠はないけど、途中、話し方にちょっとだけ違和感があったような、無かったような……。」

 セルアとの会話を振り返っていると、いつの間にか部屋に着いていた。ドアを開け、中に入る。ふと思い出した事があった。そういえば、セルアのメイドを見なかった。普通なら一緒にいるはずなのに。なぜ、あの時いなかった?


 ドアを閉め、椅子に座ろうとしたとき、クローゼットの方から、ドンっと聞き慣れない音がした。クローゼットの方に近づくと、イオが急に腕を掴んだ。


「そっちに行ってはいけません!!」

イオの様子が急変するほど、ヤバい何かがいるのか。しかし、クローゼットの中に敵なんているわけがないと思い、掴んだ手を振りほどいてしまった。


「大丈夫。敵なんているわけないし。」

「そういう事では、ありません!!早くそこから離れて!!」


 僕は素直に言うことを聞いておけば、良かったと後悔した。

 クローゼットを開くと、とんでもない物が落ちてきた。中から切断された手、足、胴体と前に落ちてきた。そして、生首も自分の足元に転がってきた。

「えっ?」

誰がこんな物が入っていると思うのか。中は真っ赤に染まった血だらけ、知らない人の死体。心臓の鼓動が異常なくらい、ドクンドクンと鳴り響き、呼吸も、乱れる。

 頭が真っ白になり、思考が完全にフリーズした。

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