第9話 何なのよ、あの女!




 少し憂鬱だけど、決意に満ちた月曜日の朝。


 土曜日の浮気発覚から、その浮気の罰として女神様の魔法の貞操帯を架せられてから迎える週初め。


 当初の目的通り、優太と接触して私の浮気を許してもらおう。


 土日の間に何度も優太にはメッセージを送ったけど、一向に返事がなかった。


 着信も何回も入れたけど、一回も出てくれなかったし、折り返しもなかった。


 だから、月曜日の朝の登校で待ち伏せして、直接話をするつもり。


 優太が私を避ける為に登校時間をずらす可能性があったから、朝早くに優太の家の玄関が見える位置に隠れる事にする。


 多分優太はまだ家の中にいるはず。


 土曜日は私が焦っちゃったせいもあって、全然話を聞いてもらえなかった。


 余計な事を言う勝もいないし、何とか挽回出来るはず。


 そんな事を考えている内に優太が玄関先に現れた。


 昨日、一日会っていないだけで、優太がすごく遠くに感じられた。


 勝との肉欲に溺れたけど、またあの優しい瞳を私に向けてほしい。


 恥ずかしそうにする優太ともう一度キスがしたい。


 私は馬鹿だ。ちょっとした好奇心と一時の快楽に身を委ねるなんて。


 でも大丈夫。優太なら許してくれるわ。


 そんな事を思いながら、優太に近づこうとした私は突然の痛みに蹲った。


 痛い、痛い。何?何なの?


 痛みの原因が分からず、この場から動けない。


 その間に優太がドンドン離れていく。


 激しい痛みに思考が奪われると、徐々に痛みが引いていった。


 動けるようになった私はすぐに優太を追いかけた。


 しかし、優太をハッキリと視界に捉えると、またさっきの激しい痛みがぶり返した。


 何なの?ほんと、もう何なのよ!


 理不尽な痛みに悪態をついていると、聞き慣れたけど、聞きたくない声が響く。


『性的興奮すると痛みを伴うって言ったでしょ?美城沙羅。アナタは今、道山優太を見て性的に興奮しているのよ。痛みが一時的に引いたのは、激痛で興奮がかき消されたからよ』


 その内容で、先日の女神様から架せられた魔法の貞操帯の説明を思い出した。


 そういえばそんな事も言っていたわね。すっかり忘れていたわ。


「これじゃ、優太と話が出来ません。どうにか出来ませんか?」


『わたくしから出来ることは何もないわ。敢えて言うなら、道山優太を見てすぐに発情するアナタの性根を変える事ね。そんな事がすぐに出来ればの話だけどね。オロロロロ~ン』


 あなたの性根も大概でしょ!


 女神様に馬鹿にされた事は腹が立つけど、これ以上女神様の話に付き合っていたら優太を見失うので、気持ちを切り替えて追いかける事にした。


 近づき過ぎず離れすぎずの距離を保ち優太を追いかける。


 私達の高校の最寄り駅に着いた優太は学校へは行かず、駅前で立ち尽くしていた。


 何をしているのだろうと思っていると、その答えがすぐに分かった。


 風美がいた。


 風美は優太へと駆け寄ると二人は楽しそうにしながら、学校へ向かった。


 何なのよ、あの女!私の優太に馴れ馴れしくして!


 あんなに寄り添って歩いて、まるで恋人同士じゃない。


 優太は私と別れるとは言ったけど、私はまだ認めてないんだから!


 とは言え、私にそんな事言えた立場じゃないのは薄々分かっている。


 でも、いつもの優しい優太なら謝ったら許してくれるはず。


 ただ、今は女神様の所為で優太に話するどころか、近づく事さえ出来ない。


 私は優太がこのまま遠くへ、私の手の届かないところへ行ってしますのではないかと言う焦りと、そんな優太に馴れ馴れしくしている風美を見て、腹の底から強い嫉妬の感情が沸いてきた。


 そんな感情を抱えながら、優太と風美に気付かれないように学校へと向かった。


 結局、優太に接触出来ないまま、教室に辿り着いた。


 登校時に仲の良いクラスメイト数人と挨拶を交わしたけど、ちょっと怪訝な視線を向けられた。


 女子は基本的に他人の機微に敏感だ。だから、私と優太の関係の変化に気づいている人もいるかもしれない。


 まだ直接的な事を言ってくる人はいないけど、直ぐに噂として広まりそう。


 この手の話題はみんな好きだからね。


 まぁ、今はそれを気にしても仕方ない。私にとっては優太との仲が最優先だ。


 優太と風美はそれぞれの席についた。


 私も二人から少し遅れて、席についた。


 教室にはすでに勝がいた。


 相変わらず何を考えているか分からないボケーッとした表情をしていた。


 また余計な事を言われたらたまらないので、なるべく近づかないようにする。


 その後、授業は滞りなく進み、短い休み時間では優太に接触する事は出来ず、私はお昼休みを待った。


 午前最後の授業の終了を知らせるチャイムが鳴ると、私はすぐに優太の元へ向かおうとした。


 けど、今朝と同じ痛みを感じ、私は席から立つ事が出来なかった。


 そんな一瞬の出来事の間に優太は風美と一緒に教室を出ていった。


 私はその後ろ姿を恨めしそうに睨む事しか出来なかった。


 この痛みさえなければ優太に近づけるけど、優太の事を考えるとどうしてもそっちの気持ちも昂ぶる。


 この感情は私の中では中々切り離す事が出来ないみたい。


 結局その後も優太に接触する事は出来ず、あっという間に金曜日の夜を迎えた。


 眠りにつく前、私は女神様の言葉をすっかり忘れていた。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る