415.不幸は狙ったようにやってくる
シントラーの叛逆と仮称された事件は、いろいろあって名称を変えた。というのも、実際に騒ぎを起こしたのは、シントラーの元侯爵よ。巻き込まれた王族ではない。
元国王は、娘を人質に取られた被害者だもの。「シントラーの」と記録してしまったら、聞こえが悪いわよね。何より、元王族が反旗を翻したと勘違いされるのは、気の毒だった。あれこれ検討した結果、土地の名前を取って「リッシリアの叛逆」とすることで落ち着いたの。
事件が起きた土地の名前で記録するのは、正当性がある。ただ一部の領地では、国名がそのまま地名で残っていたりするけれど。そこで事件が起きたら、国名が事件名に反映されちゃうわね。この辺は後で検討しておきましょう。
事件が起きないに越したことはない。けれど、事件が起きない保証はないの。逆に起きる要素の方が思いつくわ。シュトルンツ国は大陸最大の国家だった。それでも大陸統一を果たすとなれば、敵も増える。味方より増えるのが早いと思うわ。
ソファーの背もたれに寄りかかって、斜めになりながら目を閉じる。このままうたた寝したい。でも、さすがに邪魔ね。執務室だから、書類を持った文官が顔を出すこともあるの。自室へ戻ろうとした私は、飛び込んだ連絡に飛び起きた。
「緊急報告です! レーヴェンタール第二王女殿下が攫われました。止めに入ったブルーメンタール第一王子殿下が殴られて負傷、リリエンタール王太女殿下が後を追って行方不明です」
「……近衛や護衛は何をしていたの。最悪じゃない!」
長くて噛みそうな名称を並べて報告した騎士は敬礼し、その場で指令を待つ。現時点でカールお兄様は戻られていないし、テオドールも留守だった。となれば、繰り上がりでエルフリーデね。
「エルフリーデ、お願いできるかしら」
「ご命令光栄にございますが、女王陛下の護衛が手薄になります」
そうだわ。相手の目標が私の可能性もあるのよね。その場合、護衛のエルフリーデを切り離す作戦かも知れない。でも、手を打つ必要はないわ。
「安心して、私の身辺警護は影に預けます。騎士団や軍の指揮は、あなたにしか任せられないの」
お願いね。重ねて告げたことで、エルフリーデは踵を鳴らして姿勢を正した。騎士がいる執務室なので、公式対応が正しい。
「女王陛下の指揮権をお預かり致します。行くぞ、案内しろ」
騎士が一礼してエルフリーデと共に退室する。
報告の衝撃に立ち上がった私は、腰の痛みも疲れも吹き飛んでいた。今すべきことは、あの子達を無事に取り戻すこと。テオドールを呼び戻すことね。
「いるのでしょう? テオドールを呼び戻しなさい」
部屋の中で、誰ともなしに声をかける。天井で軽くココンとノックが聞こえ、エレオノールの耳が反応する。彼女の視線を追えば、影が王宮を移動する様が手に取るようにわかった。でも追っている場合じゃないわ。
「エレオノール」
「はい、街道の閉鎖と大通りの監視を手配します。荷馬車のみならず徒歩も含め、すべての旅人を調査対象に」
「任せるわ」
遮った私は、扉を開いて昇降魔法陣へ向かう。すでに報告が入ったでしょうけれど、お母様達にも知らせなくちゃね。急いで手を打たなければ、便乗した騒動が起きかねない。まだ地盤は固まっていないのだから。
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