122.フラグを立てたら回収が基本

 自分でフラグを立てた私は、帰り道で回収する羽目に陥った。襲撃者第二弾、いえ第三弾かしら。最初が獣人貴族、次が国内勢力、最後の彼らを返り討ちにして、ようやくベッドに転がり込む。


「お嬢様、これを外してもよろしいですか」


「ダメよ、明日の朝……私に挨拶に来るまで付けてなさい」


 はふっと欠伸を手で隠し、クッションや枕の位置を整える執事に笑う。可愛いリボンを付けたの。これなら恥ずかしいから罰になるわ。ご褒美だとしても、罰を与えたとわかる形は大事よね。


「襲撃犯ですが、主犯は私の方で確定して報告にあがります」


「ええ。任せるわ」


 眠かったのもあり、私は同意した。後悔は後からするもので、ましてや先に予見できない。いいえ、眠くなければ気付いたはずなのよ。






 ぐっすり眠って目が覚めて、ベッドに起き上がった私は伸びをする。まだ誰もいない部屋を見回し、ベルをちりんと鳴らした。


「お嬢様、おはようございます。今日は晴れて、良いお天気です」


 まだピンクのリボン付きのテオドールが顔を見せ、私は着替えや洗顔の指示を出す。待っていた侍女達が動き出し、予定した時間通りに物事は進んだ。


「テオドール、リボンを外してもいいわ」


「ありがとうございます、お嬢様」


 答えた彼がするりとリボンを解く。髪についた跡を指先で器用に整え、洗顔後の私にタオルを差し出した。受け取って彼を退室させる。侍女達は落ち着いた色のドレスを並べた。


 今日の予定は他国の使者と面会、それから襲撃についての報告や処理が中心ね。午前中の面会も派手さや華やかさは不要だから、彼女らの選択は正しい。茶、紺、薄青、深緑……どれも捨て難いわ。


「紺色にします」


「承知いたしました」


 着替えを終えたところに、見ていたようなタイミングでノックされる。テオドールね。


「入りなさい」


 整えた髪は結い上げて、ドレスより明るい青のリボンを絡めた。銀色の靴を履き、銀の刺繍が入ったショールを羽織る。化粧は大人びて見えるよう、指示を出した。出来上がりを鏡で確認する私の視界に、テオドールが映る。


「女王陛下より伝言がございます。本日は昼食を一緒になさりたいと……」


「承諾を返して。それから報告書は手短に纏めなさい」


 使者に会うのは、私一人。昨夜の複数回にわたる襲撃の情報が、お母様のお耳に届いたのね。ひとつは私の作戦だから構わないけれど、戦力過剰で叩いた国内勢力はいただけないわ。それに帰り道を塞いだ集団もあるし。


 詳細な報告書は別に用意させるけど、さっと目を通す概要も作るよう指示した。どうやって痛めつけたか、まで記載するテオドールの報告書はとにかく分厚い。あれを読むのはしんどいわ。


「かしこまりました」


 大人しく従うテオドールに首を傾げ、私は隣国アリッサムからの救助要請を断るために足を運んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る