青い鳥シンドローム
Nanashun / ななしゅん
第1話 春
桜が散り終わった時くらいだろうか。僕は本格的なシンガーソングライターを目指し、お馴染みの新宿駅前で路上ライブなるものを披露した。加えて、SNSアカウントを作り、プロデュース活動も始めた。相も変わらない黄色い声援はSNSまで浸透し、フォロワーもその日で1000人を突破した。手ごたえがあった。俗に言う「売れる」というものももうかなり現実味を帯びていた。しかし、ある日、隣に、わざわざ隣に、同じように路上ライブの準備を進める一人の同世代位の少年が来た。僕は眼中にもないと思っていた。その証拠にその日もお客さんはかなりの量いたからだ。けれども、僕の演奏が終わるや否や、隣の彼が歌い出すと、お客さんはかなりそっちにも目を向けていたのがわかった。僕は自分が集めたお客さんを取られたような気分になって少し癪に障ったが、実力差は歴然としていたため、余裕の表情をとった。そうこうしているうちに、彼の楽曲が終わり、当たり障りのない拍手が夜の新宿駅に響いた。ふと隣の彼を見ると、こちらを向いていた彼と目が合ってしまい、少し気まずくなったが、仲良くする気もなかったので、僕はそのまま自分のライブを続けた。結果、その日はなぜか対バンみたいになってしまった。お客さんはかなり満足いっていたようだが、僕は満足のいくライブにはならなかった。ライブ終了後、アンプやケーブルの片づけをしていると、隣の彼が声をかけてきた。
「はじめまして。鳴海響です。よろしく。」
そういって手を差し出してきたが、僕が一番気になったのは“よろしく”という言葉の意味であった。そう、僕らは仲間ではない。いうなれば同士であり、ライバルである。といいたいところだが、別にそこまで肩を並べているという感覚もなかったので、僕は彼の差し出した手を払ってこう言った。
「僕は別に君と仲良くする気はない。第一、人がライブをやっている最中、隣にくるのはどうかと思うよ。」
しかし、彼は手を払われ、文句も言われたはずなのに、僕にこう言ってきた。
「それは悪かったね。僕は上京してきて、こっちで路上ライブに慣れていないから、つい君の隣に来てしまった。これからは自分で探すようにするね。」
上京。その言葉で彼が案外本気なのはわかった。けれども、だからといって今回のことを続けられると僕の夢の邪魔になる。だから、同情した上で、やっぱり僕は先程の強気な態度を反省することはなかった。その日はその会話を最後に二人別々の場所に帰った。帰り道、興味もないはずの彼のSNSをたまたま見つけてしまい、覗いてみると、フォロワーはたったの11人だった。やっぱり僕の才能とは程遠い存在であることは、感覚的にも、数字としても、ハッキリと出ていたのであった—
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