第46話 人助け

「……。ありがとうございます。…。」


芋を握りしめた男は気まずそうに言う。


「そのお芋は?」


津久見は男を見つめながら言った。


「恥ずかしながら。うちは貧乏じゃて、子供たちに食わすのがやっとの毎日で…。」


男は津久見の目を見れない。気まずさが先行しているのであろう。


「お名前は何と申されます?」


「へい。高木惣兵衛たかぎそうべえと申します…。」


「そうですか。お仕事は?」


「百姓でございます。銭が無くて、畑に柵も作れなくて、猪に荒らされてしまいまして…。」


「それは大変ですね…。お子さんは何人いらっしゃるんですか?」


「三人でございます…。上から7歳、5歳、2歳にございます。」


「それでは育てるのも大変ですね。」


「…。運命と言うのは酷なもんで、嫁に先立たれて、もう…。」


高木はもう泣きそうであった。


「…。平岡ちゃん、ちょっといい?」


と、津久見は振り返ると平岡を呼んだ。


「は。」


平岡は津久見の側に来ると、津久見は耳元で平岡に何か囁いた。


「え?まことにござりますか?」


なにやら平岡は驚いたように聞き直す。


「はい。お願いします。」


「はあ。かしこまりました。」


平岡は、言われるがままに何やら三成の道具箱をゴソゴソと取り出し、何かを持ってまた戻って来た。


「これに。」


と、津久見に渡す。


「ありがとうございます。」


「高木さん。」


「へい。」


「ここで会えたのも何かの縁です。これを受け取ってください。」


と、手にしていたものを、強引に高木に手渡した。


そこには「大一大万大吉」の刺繍の入った布袋があった。


高木は恐る恐るそれを受け取り、中を見ると、そこには大量の銭が入っていた。


「これは…!!!」


高木は驚きながら津久見の目を見て言う。


「私はこれから戦の無い世を作ります。そこには身分も関係無く、子供たちが笑顔で暮らせる世です。」


「…。」


男は膝から崩れる。


左近や喜内達は遠くからそれを見ている。


「高木惣兵衛殿。あなたは先程一度死んだ。」


「え?」


「その銭を使って、生まれ変わった気持ちで働き、私の作る世を、子供たちが笑える世を作りなされ。」


「そんな…。」


えんです。この世は全て縁です。それに、これを。」


と、津久見は脇に刺していたいた扇子を差し出した。


「え、これは…。」


「餞別です。受け取ってください。その分頑張ってくださいね。」


と、扇子を渡す。


「それでは私は行きますので。」


と、振り向き歩いて行く。


後ろには、崩れながら泣いている男の声がする。


「ありがたや…ありがたや…。」


歩く津久見の目にも涙が光った。


(あの男は…。あの方は…。きっと…。)


「頑張ってください…。」


声にならない位の小さな声で言うと、左近に向かって


「さあ、行きましょう。中津城へ!」


と言うと、シップに跨り走って行く。


高木惣兵衛は津久見の姿が見えなくなるまで泣きながら、手を合わせながら見送った。




第46話 人助け 完

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