第44話  条件提示

「まるで人が変わったようじゃな。治部よ。」


清正が探るように言う。


「そうですか?今まで言った事はすべて本心です。」


津久見は清正の目を見つめながら言う。


「しかしな…。内府殿(家康)は、この戦の働きにおいて功労者には、領土を分け与えると、東軍大名に伝えておったそうじゃ。」


「はい。」


「わしは、ちょっといざこざがあってここから出陣は叶わんかったがな…。」


「はい。」


「そこらへんはどうするんじゃ。諸国は領土拡大を担保として、内府殿へついたわけじゃぞ。」


「そこは…。考え中です。」


「考え中???はははは。」


清正は膝を叩いて笑った。


「治部よ。戦後処理も考えずに、和議をしたか。何も考えもないのに。」


「考えてない訳ではないです…。」


津久見は小声で言った。


「じゃあ、申してみよ。」


清正は見下すように津久見を見る。


津久見は頭をフル回転させながら一つの言葉が浮かんだ。


「直轄領…。」


「うん?」


津久見はは目を光らせながら言う。


「直轄領ですよ!清正さん!」


「何じゃて?」


「今現在、豊臣家が管理する直轄領が各地にあります。それを、分け与えます。」


「なんと?豊臣家の?」


「はい。まだ詰めれてはいませんが…。」


「ふ~ん。それなら、ここ豊後近辺にも数か所あるがな…。それを分け与えると?」


「はい。今後は、戦では無く、商いと、農業と、教育で国を作って行こうと思います。」


「ぬぬぬ。それなら我ら武士はどうするのじゃ?」


「…。考え中です!」


「また、それか。」


「領土問題を解決したら、その後は、その領土経営に各大名家が心血を注ぎ、産業・商業で地域を盛り上げ、武士から百姓に至るまで、笑顔で暮らせる国を作って行く。これが、今私の考えている案です。」


津久見の頭は混乱し、自分が何を言っているのかも分からないが、


最後の『武士から百姓に至るまで、笑顔で暮らせる国』だけが、一番伝えたいことであった。


それを実現するための過程は後からでも良い。


今はこの大願を持って、敵対心を持っている諸大名を説得するしかないと、津久見は思っていた。


「ふん。良く分からんが…面白いのか?」


清正は、津久見を見つめ言う。


「え?」


「その国作りは、楽しいのか?と、聞いておる。」


「…。」


「どうじゃ?」


「はい!!めちゃめちゃ楽しいはずです!だって、笑顔で溢れる国ですよ!!??」


「そうか…。」


清正は、ふと天井を見上げた。



「わしも、虎之助とらのすけと太閤様に呼ばれ、市松いちまつ(後の福島正則)らと、小姓としてせっせと働いておったときは、良く笑ったもんじゃ…。」


「そうでしたか。」


「お主はいつも、どこかツンとしておったがな。」


と、清正は津久見を見て笑った。


津久見は恥かしそうに、顔を赤らめた。


(いけるか?)


津久見は心でそう思った。


すると、清正は真顔になって津久見を見つめ直すと


「それでだな。」


「え?」


「条件じゃ。」


「条件?」


「うむ。お前のさっきの言った国作りの件についてじゃ。」


「はい…。」


「豊前のおじきじゃ。」


「豊前のおじき???」


「そうじゃ、豊前のあのおじきを説得出来たら、その話乗ってやろう。」


「豊前のおじき…。黒田官兵衛さん…ですか?」


「そうじゃ。あのおじきは一筋縄では行かぬぞ。」


「分かりました。私は元より、そのつもりで、ここまで来たのですから。」


「自信は?」


「五分五分。」


「よう言うわ。お前如きが、あのおじきを説得できると?」


「何となく、策はありますし、官兵衛さんも策を弄して来そうですが。」


「面白い。男に二言は無い。決まりじゃ。」


と、清正は言うと、立ち上がり人を寄越した。


「ほれ、治部が豊前の黒田のおじきの所に行くそうじゃ。道案内に何人かついて行け。」


「清正さん…。ありがとうございます。」


「だがな、もし黒田のおじきを説得できなかったら…。」


「できなかったら?」


清正は睨むように津久見を見る。


「殺す。」








津久見は、左近を頼るように白目を剥きながら倒れた。




第44話 条件提示 完

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