第28話 解散

「殿。いかがいたしますか。」


左近は座ると切り出す。


真禅院の奥の間に、四人の男は座っている。


石田三成・徳川家康・島左近・本多正信


交じり合う事の無い人間たちがここに集結している。


「時間がございませぬな。」


正信は未だに不服面ふふくつらで言う。


「はい。両軍に伝令を放ったものの、それに皆が素直に従うとは思いません。総大将のが戦場にいないといけませんもんね…。」


津久見は焦りを隠しながら言う。


「して、治部殿。今後はいかがいたしまするか。」


試すように正信は言った。


「はい。まず、東西両軍一斉に兵を退きます。先程家康さんが言われたように、東軍は清州城。西軍は大垣城に。」


「まあ、そこまでは分かったが…。大事なのはそのあとじゃ。治部殿。」


正信は、食いつくように言う。


「はい。内府殿と、先程話し、決定したのは


『戦をしない事』


『平和裏に兵を撤退させ、自国に各々戻る事』


それに…。」



ここからが重要である。


まさに準備万端で関ヶ原に乗り込んで来た、東軍としてはその領土を美濃まで広げている状況だ。


今から津久見が言う『国境』はその領土を後退させた位置に設定しようとしているのである。


津久見の考えでは、東軍の総大将に成り代わった島森。家康の威を借りながら、どうにか説得はできよう。


しかし、津久見は西の総大将ではない。


そこの問題を美濃から天竜川までを、西軍の領土に設定する事で、領土分配を一応できる計算もあった。


「それに?なんでござろう。」


正信が聞く。


「はい。東西は天竜川を持って、分かち合う事となりました。」


「何と!?」


「これは内府殿もご理解くださいました。」


と、家康の方を見る。


家康は正信を見ると、無言で頷く。


「そそそ、それではあまりにも領土の差が…」


「はい。北海道・東北方面の領土の問題もありますが、この日ノ本の中間地点を定めるとすると、天竜川を国境とするのが一番良いと、決まりました。東軍の方々におかれましては、その領国経営に励んで頂きたく…。」


「馬鹿を言うな!」


「時間が無いのです。内府殿と決めた話です。」


「殿!本当にございますか???」


正信は家康を見る。


家康はゆっくり正信を睨むように見た。


「ああ。」


「なんと…。」


正信の肩が崩れる。


「では、決め事として、天竜川の両岸に意見交換所として…。」


津久見の頭はフル回転した。


(この後3カ月で何ができる??何が起きる??連絡所を早々に作る事はできないし…)


天竜川に近い城…。


津久見は考え思い付きで続けた。


「初回は浜松城にしましょう。その後、3カ月毎に一度私と、内府殿とで対談の機会を設けます。3か月後の1日ついたちにそこで二人で意見交換を致します。」


家康の眉が動く。


(津久見…。そういう事か。3カ月に一度、逢う事ができる。そこでお互いの…。ナイスやで)


そんな話がされている中、外が騒がしくなってきた。


「ここにおるんじゃろ!!!三成!!出てこい!!!」


威勢の良い声だ。


声だけで分かる。


福島正則だ。


「さあ、時間です。宜しくお願い致します。」


津久見はそう言うと、左近の方を見て更に言う


「左近ちゃん。そういう事ですので、一旦陣に戻りましょう。」


「と、殿…。」


困惑した様子で三成を見つめる。


「戦の無い、皆が笑って過ごせる国を作りましょう。」


津久見は言うと、立ち上がり真禅院の出口に向かい歩き出した。


つられるように、残りの者も続き庭に出た。


(津久見!一応は分かった。でも、うまく出来るか分からへん…)


(ああ。俺にだって分からない。でも…)


(でも?)


(俺らがこの世界で生き残るためには、これが最善の…)


(そやな。歴史通り行ったら、お前は殺されてまうからの…。)


二人はまた小声で話す。


そこに、槍を片手に息巻いている福島正則が現れた。


「どういう事じゃ!三成!!それに内府様も!約束が違うでござろう!」


と、槍を構えた。


今にも、三成を串刺しにしそうな勢いである。


左近が三成の前に立とうとすると、一人の男が福島の前に立ちはだかった。


「黙れい!!」


天を突くが如き声であった。


「休戦じゃ!これ以上その槍の矛先動かしてみよ。お主の首が飛ぶぞ!」




家康であった。




(島森…)


「半蔵!」


その号令が出た瞬間、真禅院の入り口、綺麗に手入れされている杉の木、石碑…至る所に人の気配がした。


服部半蔵の手下が瞬時に構えたのであった。


福島は、身動きができなくなった。いや、動けば殺される。


今の家康ならやりかねない。


そんな気迫すら感じられる。


「では、治部殿。行きましょう。」


「はい。」


4人は固まる福島を通り越して行く。


真禅院の門の前に着くと、4人は馬に跨がった。


「それでは撤退は本日夕刻までに。3か月後の2月1日に…。」


「ああ。天竜川で…。」


二組の馬は別々の道を歩む。


(島森。頼むぞ…。)


左近と共に歩む、津久見は手にしたシップの綱を握りしめながら思った。


(まずは、秀頼。そして…)


シップの歩みを少し早める。


(淀…。)


第28話 完

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