第185話 首を狩るもの

「12使徒についての情報がほしい?」


ゴウグレは、最初にあったようなマントに頭巾ですっぽり身をつつんでいた。

さすがに、歯をきしり合わせたり爪を立てたりして、話すのはあきらめたらしい。普通の少年の声だ。

二人のメイドともども、ランゴバルド冒険者学校ルールス分校の生徒にしてやったので、ぼくの後輩ということになる。

当然のように「一般常識不足」と判定されて、10日間の追加講習だ。


ランゴバルドの「聖櫃の守護者」というのは、その昔、英雄と言われたものたちの遺品を保管するもの=聖櫃を守護するもの、という意味で、英雄たちの加護を得た伝説級の武器を使うことのできる選ばれた戦士たちのことらしい。

実力のほうは、未知数ではあったが、ネイア先生がそのひとりであるくらいなら、かなり期待はできる。


ランゴバルド伯爵は、可能な限りの「聖櫃の守護者」と「銀級」以上の冒険者に依頼をかけて、使徒への対策を行うと明言した。

加えてぼくを逮捕して情報を絞り出せればさらに、満足だったのだろうが、そうそう思い通りになってやる必要もない。


「旅の商人みたいな格好をしたヤツで、表の顔は黄金級冒険者のアスタロトだ。『首狩り』の異名をもつ。」

ぼくは説明した。

「国境の当たりで、ランゴバルドの『聖櫃の守護者』を二人、蹴散らして、ランゴバルドに向かったらしい。

竜の首のようなものを持ち歩いていて、実際、そこからブレスも使ったらしい。」


「使徒としての名は『首使い』のアスタロト、という。」

ゴウグレは素直に答えてくれた。

「取った首の命がつきるまでの間、その者の能力を使うことが出来る。」


「なんとも微妙な能力だなあ。」

思わずぼくは言っていた。

「首をとった相手がよほど、力のある相手でもなければ、そもそも意味がないし、取った首の命なんてそうそうにつきるだろ?」


「その通り。表では黄金級の冒険者として通用する業前を持ちながら、12使徒ではなかった・・・彼が12使徒になったのは5年前。

とびきりの首を手に入れた・・・とかで、な。

それが、いまやつが『使徒』として活動するときに持ち歩いている竜の首。」


「切断された首が5年も生きているなんてあるの?」


「たぶん、どうやって殺したらいいかもわからないんだろ。」

ある種の敵愾心があるのか、少年の声は冷淡だ。

「アスタロトがもっているのは、神鎧竜レクスの首だ。」




「と、言うのが最新情報なんですが。」

アモンも・・・リウもなのだが、自分がトップにたつ組織については、かなり責任感が強い。

リウは、「魔王党」の放課後の鍛錬には必ず、自ら指導に立つ。実際のところ、リウとエミリアを除けばどんぐりの背比べもいいところだ。

だったら、エミリアに指導をまかせてもいいものだと思うのだが、律儀に毎日、必ず顔を出している。

アモンも同様だ。神竜騎士団などというごっこ遊びは、彼女にとってなにもメリットないはずだが、神竜騎士団の本部に居を構えて、自室にはたいして戻ろうとしない。

なので、寮の部屋はギムリウスの一人部屋となっている。人のふりをする蜘蛛の部屋が、どうなっているのか、足を踏み入れているのは、ロウくらいなのでよくわからない。


ぼくらは朝食くらいはいっしょに取っているし、夕飯後は、宿題でもない限り、ロウの部屋でお茶を飲みながら話をするのが日課になっているが、このニュースは一刻も早くアモンに伝えたかった。

一緒についてきているのは、フィオリナにアキルだ。


フィオリナはともかく、この異世界少女は、ぼくらを気に入ったのか、それともこの世界での最初の知り合いだったためか、時間さえ許せば一緒にいる。

ぼくも個人的には、アキルにはそばにいてくれたほうが。



なにしろ、が「勇者」に選んだという女の子だ。

どこでどんな動きをするかわからない。そして動いたとしてもそれが、本当に彼女の意志によるものなのかもわからない。


フィオリナとふたりでいくら精査してもアキル自身の心に、ヴァルゴールの干渉の痕跡はまるでない。身体自体はヴァルゴールが提供したと、アキル自身がいうのだが、「使徒」特有の臭いもしない、とギムリウスははっきり言うのだ。


これについては、ヴァルゴール自身を呼び出して問い詰めてやろうと、何回か試みたのだが、すべて失敗した。


「レクスはよく知ってる。昔なじみだ。わたしくらい古い竜になるとな。ほんとうに昔なじみなんてやつは少なくなるのだが。」

アモンは懐かしそうに言った。

「だが、あれくらいのやつが死ねば、当然、わたしにだって感じ取れるものなのだがな。

本当にレクスの首をもっているのか?」


「確認のしようがない。」

ぼくは言った。

「タイミング的にはもう、ランゴバルドにはいっているはずなんだけど、ギムリウスの羅針盤にも反応がないんだ。」


アモンはちょっと考えていたが、うん、と頷いた。

「羅針盤をレクスに反応するように調整しよう。

それをボルテックにくれてやれ。」


「なぜ?」


「決まってる。ランゴバルドに来てからあの師弟はなにも役に立っていない。そろそろ一仕事してもらってもいいだろう?」

「ゴウグレとアレクハイドを捕まえるのには役に立ってくれたけど。」

「わたしは点が辛いんだ。自分の弟子がつかまってそれを助けただけだろう。しかもおまえに痛い思いをさせて。」


それはそうなんだけど・・・


「神鎧竜の首がからんでると聞いたんで、アモンが自分でやりたがるかと思ったんだけど・・・」


「わたしが出るとな。」

アモンはウィンクしてみせた。

「一瞬で終わってしまってつまらない。ボルテックとその弟子なら、12使徒やその配下どもと楽しく遊べるだろ?」


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