第180話 ドロシー!ドロシー!!

ジウルとは、校門の前で別れた。

なんとなく、だが、ヤツにドロシーを触らせてるのが嫌で、ぼくは結局、ドロシーの治療を全部一人でやったのだ。


ぼくが支配化においた彼女の中の蜘蛛は、大変に従順で、好きに消えろと言っても言うことを聞かずに、治療の間中、ぼくの頭の上に乗っていた。


マスコット的な存在を狙ってるんなら、こっちはもう、蜘蛛のマスコットはギムリウスだけでお腹いっぱいなのだが。

ドロシーは眠らせたまま。

手首の繋ぎより、彼女がしゃぶっていた短剣による口腔内の傷の方が、やっかいで、蜘蛛が体内に巡らした巣の撤去はさらに面倒だった。


ここまで来たら、もうボルテックには、いっさいドロシーに触らせたくなかった。

なので、体格的にはほぼほぼ一緒の彼女を担ぎ、ついでにボルテックの転移にも頼りたくなく、歩いた。

冒険者学校の校門前に着いたら、もう夕刻を回っていたのだ。


「なあ、ルトよ。一つ言っておくが、」

「大丈夫、明日にはホテルに戻します。不埒なことは一切しませんから。」


「そのことなんだが、どうもおまえもじゃじゃ馬も誤解をしている。

俺は、ドロシーを抱いてないぞ!」


「戦いを性的な快感に昇華するとかなんとか言ってませんでしたっけ?」


「何もなくはなかったが、何をしたのかは白面じゃとても語れん。

聞きたいなら、彼女に聞け。」


「つまり、『それ』以外の行為をほとんどやったと?」


「噛み付くな。お互いに望んでしたことだ。」


道徳も倫理も現代のぼくらとは、異なる連中だ。今のグランダは少なくとも一夫一妻。


側女や愛人を作って糾弾されることはないが、そんなものはいないに越したことはない。理想的な夫婦の典型は、ぼくの父親でぼくを殺しかけた前グランダ王夫妻なのだけれど。



校門をくぐると、フィオリナが待っていた。

「妖怪じじいからは、連絡もらった。」


なんでおまえからはないんだ、という非難を込めている。

ぼくの頭の上にちょこんと乗っている蜘蛛に気がつき、言った。

「人間に寄生するタイプのやつだ。なんで懐いてる?」


「ドロシーに寄生してた。制御をしていた変異種からぼくが制御を奪ったら、懐かれた。

悪さをするかだが、まあ、ギムリウスに預けるつもりだし、やれるものならやってみろ、というところか、な。」


フィオリナは、黙ってぼくの腕の中から、ドロシーを取り上げた。


「峡谷から歩きで戻ってきたんでしょ?

ボルテックの転移も使わずに。少し休めと、言いたいけど、もう少し頑張れ!」


言われて初めて、ぼくはけっこう自分が疲れてることに気がついた。


「とりあえず、ロウんこところがいいでしょ?

広いし、彼女、面倒見もいいし。」


確かにそうだった。


ロウの笑顔は淡月に、似ている。

なに、もう大物をふたり、サクッとやっちゃたの、まあそりゃ、ルトだもんね。わたしは、これから補修に出るよ。

帰りに学食で食べるもんをもらってくるから。


ああ、間接的とはいえ、ヴァルゴールの支配下に置かれたんだ。傷は治ってもケアはいるよ。

その蜘蛛は、ギムリウスに預けとく。



相変わらず面倒見のいい、真祖はそんなことを言って、バルコニーから姿を消した。





「さて、もう目を覚ますだろ。どうする?」


「ヴァルゴール以前に、じじいにもいろいろされている。」

ぼくは、ボルテックから聞いた話しを聞かせた。


「わかった。」

フィオリナはちょっと怖い顔でぼくの肩を掴んだ。

「これから、命懸けで助けてきた恋人を懸命に看病し、ついに意識を取り戻した恋人と感極まってとうとう一線を超えてしまうカップルとそれを密かに婚約者が見ていた!でもって、カップルのほうは実は婚約者が見てることも知っている、という状況下で、いかに燃えられるかっていう小芝居をするから。」


「ぼくの婚約者は倫理観はゼロかっ!」


「毎晩、酒瓶かかえてミュラの寝室を訪れちゃうのが日課になるくらいはるゆるゆるよ。

わたしが好き勝手にしたぶんは、きみにも好き勝手をしてもらう。こういうことはフェアじゃないとね!」


ああ、それと。


とフィオリナは恐ろしい顔で楽しそうに言った。


「体のことは言い訳にするな。指と舌だって相当なことはできるんだ。

きみがその行為についてどう感じるかも実はまったく問題じゃない。

相手をどう感じさせるかだけだ。」



すごいひとたちだなあ。


ボルテックにもいろいろされて。

のたありから、ドロシーの意識は戻っている。


自分の高揚感のままに、使徒に挑み、敗北して。

体の中になにかを入れられて、自分はおかしくなった。


ヴァルゴールとその使徒に服従して、身も心も捧げ尽くしたい。そう叫んだことを。

ボルテックとルトに行為をせがんだ事も。

ルトの首をナイフで力いっぱい刺したことも。


この二人はそんなことは大したことではないと思っている。

ただ、わたしは大変なことをしてしまってるのだと、そう考えているはずなのでそれをどうケアしようかと、クソ真面目に非常識なことを考えてそれを実行しようとしているのだ。


「わかった。下手クソ!

もういい。わたしがやる!」


フィオリナの罵声が響く!


「要するに、ちょっと荒っぽくやって、こいつを絶頂まで持っていけば正気になるんだろっ!

いい。わたしがやる!」


「いきなり、脱ぐなっ!」

「こういうのは、肌の暖かさがいいんだ!」

「あ、あの」

ドロシーは、目を開けた。

フィリオリナの上着とスカートが床に散らばっていた。

シャツのボタンは4つ、外れていてささやかな胸の膨らみがみえた。

随分と人のことを鶏ガラとか言って。と、ドロシーとしては思わざるを得ない。


「あ、」


「心配するな!私に任せろ!

こう見えてボル・・・ジウルより強いんだ。おまえをめちゃくちゃにしてやる!」


「あの・・・わたし、同性とはそういう事はちょっと」


フィリオリナは真っ赤になって、ルトに、どうしてくれんだよ、これ!とか騒いでいる。


ルトとドロシーは同時に思った。



知らんがな。



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