見知らぬ猫と朝チュンしたら管理人さんが凸してきた

神庭

1 鼻がムズムズする

 小鳥のさえずりが聞こえる。


 チュンチュン……。


 いや。ちょっと。


 チュンチュンチュンチュン。

 チュンチュンチュンチュン。


 さえずりっていうか集会開いてんな。


「うう……まだ寝かせてくれよぉ」


 呻きながらサイドテーブルに向かって懇願するも、意味はない。


 騒いでいるのはベランダにたむろするスズメのほうであって、毎朝健気に社畜現実逃避三度寝に付き合ってくれる目覚ましではないからだ。


 俺は寝惚けていた。


「んん……」


 窓からライトグリーンの光が差し込んできて、俺は安堵のため息を漏らす。


 優しい透過光は安寧の証だ。


 カーテンを引いて迎える朝は、その日が休息日または午前有給であることを意味する。


「昼まで寝よ……」


 スズメのさえずりごときが、疲れ果てた企業戦士の睡眠欲に敵うはずがないんだよ。発声練習でもして、出直して来たまえ。


 あくび混じりに独り言ち、俺は腕の中の柔らかなぬくもりを抱き寄せた。


 モフッ。


「え?」


 ぷぅぷぅ……クシュッ。


「!?」


 陸田りくた耕一郎こういちろう、彼女居ない歴=年齢、もちろん独身、サラリーマン。


 28歳にして、人生初の朝チュンしちゃいました。


***


 頭が……猛烈に痛む。


 やばい。記憶ない。


 どうしてこんなことに……。


「ケケケケケッ」


 お相手は、なに食わぬ顔で俺の腕から抜け出して、色々とで毛繕いを済ませると、ベランダにたむろするスズメにクラッキングを始めた。


 この状況に焦ってるのは俺だけだ。


「やべぇえ! ここペット禁止なのに!!」


「ニャァアァオーーー」


「やめてっ。管理人室近くなの。あの人超怖くて、君が見つかったら俺、殺されるのっ」


 超は言い過ぎだったかも。

 でも怖いの。たまにすごい目で俺を見てるの。なんで?


「クックックッ」


「あ、いいね。それ。それでお願いします」


「ニャーーー!!」


「あぁああ……」

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