第10話
その後、彼女とは何となく徐々に緩やかに疎遠になっていった。どちらともなくというよりは明らかに確実に彼女から距離を置き始めたと感じられた。そしてそれはあの日を境にしてのことと思われた。
それから僕は一人でいくつかのアパートを内件して回り今住んでいる物件に落ち着いた。
結局は大学からも駅からも繁華街からも離れた場所になった。それでいいと思った。一人で住むならそれでいい。寧ろそれがいい。静かで静かで静かなのがいい。
そこで出会ったのが珠美さんだった。
デパートで買った菓子折を左手に提げ
「今度、隣に越してきました。宜しくお願いします。」
と定型文宜しく挨拶を告げると
「きゃー。うっそ。これずっと食べたかったの。でもすごい並ぶのよね。あそこ。そんな並んでる暇あったらあれもやらなきゃだし、これもやらなきゃだし、でも売れてるってことはそれだけ有限な時間を捧げ費やす価値があるってことじゃない。その本質を私はまだ見定められてないから並ぶことは出来ないのだけど頂けるというのなら今日こそ見極めることができるわね。今後の行動指標に繋がってくるわ。心からありがたいと思うわ。」
びん底眼鏡。赤と橙の格子の半纏。わしゃっとした髪をお団子に結い上げて、というより邪魔にならないように上空に寄せている、というのがしっくりくる見事なまでに独特の空気を纏ったお隣さんとの最初の出会いだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます