第3話 バレたってコト!?
次の日、一日中ずっと周りから視線を感じた。流石の僕でも気付く程には。特に樋口さんからは強い視線を感じる。
事が起きたのは昼休みだった。
「おいおいおい、森川から聞いたぞ。お前やっぱり樋口の事気になってんの?」
「なんでこんな噂になってんだよ......」
後で知った話、森川さんは無類の噂好きで学校内の情報屋としてどうやら有名らしい。つまり僕の恋慕模様が余程のとくダネという訳だ。
そんな中、事件が起きる。
仲良しグループから僕にやってくる少女がいた。もちろん樋口さんだ。
「ねぇ、ちょっといい?」
「え、あ......ご飯食べた後でも避けれ、ばぁ!?」
無理やり腕を引かれて教室から連れ出される。それはもうとても強引に。去り際に教室から男どもからの怒号や女子の黄色い声援が聞こえたが、どっちにしろ最悪だった。
樋口さんに連れられたのは屋上の扉の前。人気のない所だった。
「あの......こんにちは?」
「アンタねぇ!?人形の事聞くなって言ったでしょ!?」
「ご、ごめんなさい」
「ねぇ、あの時殺すって言ったよね」
「違うって、人形の事は誰にも話してないから......話題には出したけど」
「そんなの屁理屈じゃない!」
「ご、ごめん」
「あれ関わるなって言いたかったんだけど。それになんかすっごい変な噂までたってるし......最悪」
すっごい毒吐くなぁ。
内心焦りながらそんな事を思った。普段の樋口さんはもっと優しい言葉使いの清楚な人のイメージがあったのだけれども。
「ねぇ、一昨日のあれ。なんだったの?ただ人形と独り話してたわけじゃないんでしょ?」
「......いや、言わないから」
そう彼女が悩んでいると、制服のスカートから人形がヒョッコリ顔を覗かせる。
「ねぇ、もういっそ喋るといいの」
「しゃ、喋った......」
ゴシップ人形が口を開く。僕にとってはそれだけでも衝撃的な現象だった。
「でも」
「これ以上嗅ぎ回られても面倒だし、変な誤解が広がったら最悪なの」
人形がそういうと、樋口さんは葛藤の末に何かが折れたようだった。
「えっと、これからの話はあまりにも突拍子もないし、非日常かもしれないけど、聞いてくれるわよね?」
「うん、というかもう喋って飛べる人形は非日常だよ......」
「そうかもね」
*
「えっと、まず何から話せばいいのかな」
「人形さん、なんて言うの?」
「ん、私の名前はアリスなの。よろしくなの」
アリスと名乗る人形はスカートの裾を持ち上げお辞儀をした。
「えっと
よろしくなんかしたくないわよ、と悪態をつかれる。
「じゃあせっかくだしアリスの説明かな。アリスは私がネットでオーダーメイドで作ってもらったの」
「動く人形を作ってもらったのか?」
「私も仕組みなんて知らないけど、魔法みたいなものみたい。信じられないかもだけどアリスは電動でもないし、浮くこともできるの」
「......仕組みは本当に知らないの?」
「知らない。不思議だとは思うけれど、私には知りようもないし、今はそれどころじゃ無いから」
「というのも?」
「私がアリスを買ったのには理由があるの。というのも最近、私の私物が無くなってるよ」
彼女曰く、最初はヘアゴム等の小物で済んでいたらしいが、最近になって内ばきや教科書にまで及び始めているらしい。
「ストーカーって事?」
「多分。でも妙なのよ、部活時間の最中や授業中ばかりに無くなるから、この前部活の更衣室に隠しカメラを置いておいたの。私のロッカーは一度も開く事はなかった。なのにーー」
私物は無くなっていた。
「本当におかしいって思った。本当は私の勘違いだって何度も考えた。けれど、私のものは無くなり続けた」
「アリスはコトネのボディーガードなの」
「人形如きで本当に用心になるのか?」
「アリスはー、力持ちなの!」
そういうとアリスは僕の片手を掴むとふわぁっと持ち上げる。脚が床を離れる。
「わ、わわわ、下ろして下ろして!!」
「......大体そういう感じ。満足した?」
「そうなんだ。ねぇ、樋口さん僕にもそれ協力させてよ」
「は?......あなたにできる事は無いと思うんだけど」
「あー、それに関してはそうかもだけど」
僕は徐に制服のポケットに手を突っ込む。
そして取り出したのは銀と赤色の宝石でできたでできたヘアピン。
「なにそれ。あなた、ヘアピンとかするの?」
「ああいや、これアリスみたいなーー」
「呼び捨て、辞めて」
「え?」
「呼び捨てをやめるの。次やったら許さないの」
何この人形。急に怖い。
「......アリスさんみたいな現象を起こせるんだ」
「もしかしてあなたも魔法使いみたいなアレなの?」
「魔法では無いかもだけど」
「まぁ......アリスみたいなのが存在するなら他に何があっても不思議では無いかもね。でもそれ本当なの?」
「うん、じゃあちょっとやってみよっか」
ちょっと待ってて、と言って僕は教室からノートの1ページを破いて、持ってくる。
僕はノートに『いちご』という文字を書く。
「汚い字」
「うっさいわ。いちご、見たよね?」
「そりゃあ、そうだけど。それがどうしたの?」
僕はその切れ端を畳んでポケットにしまう。
「じゃあ......その、手触っていい?」
「え、なに急に。キモ、本当に無理」
凍てつくような淡々とした声で罵倒される。一瞬本当に死にたいと思った。
「身体の一部が触れてればいいから」
「じゃあ、脚」
「なんで......」
「変なことしたら直ぐに蹴り飛ばせるから」
「思いの他物騒だった!」
という事で僕は膝をつき、彼女の足に触れる。自分でやっておいて何なのだけれど、凄く如何わしいことをしている気分だ。それにさっきから上にある光景、スカートの下が脳裏にチラついて凄い怖い。不意に上でも覗こうものなら本当に僕の顔に蹴りが飛んでくるだろう。それにクラスの美少女の足を触るというのは胸の高鳴りが凄いものだ。男として、心臓が持たないというか、正直勘弁してほしい。
「ねぇ、絶対顔にあげないでね?」
「ねぇ、本当に足なの?ねぇ?やっぱりやめない?今凄い命の危機と殺気を頭上から感じてるんだけど」
「......うん、まさか本当にやろうとするとは思わなかったから」
「アリスは一体何を見せられているの」
人形ちゃんが至極当然のツッコミを入れる。
流石の彼女も不味いと思ったのか手を貸してくれる。そして僕はやっと目的を遂行する。ヘアピンに語りかける。彼女の記憶を奪えと、強く願い能力は発動した。
「ん、じゃあ僕さっきノートに何書いたっけ?」
「そりゃあさっき見たんだから......あれ?」
「覚えてないでしょ」
「マジックか何か?さっき千秋君がなにかを書いたのは覚えているのに、私もそれを見ていたの憶えているのに。何を書いたかは思い出せないんだけど」
「そう、僕の能力は記憶を消すことが出来る。残念ながら樋口さんのストーカー事件には役に立たないかもだけど」
「......そのヘアピンが特別なものなの?」
「うん、これのおかげ」
「それが魔法みたいな現象を起こすの?」
「うん、その認識であってる」
「ふーん」
彼女はあまり理解した感じではなかったが、何とか飲み込んでくれた様子だった。
「ま、僕にできる事があったらなんでも聞いてよ。これ手の問題には樋口さんより詳しいと思うし、ストーカーの件も手伝うから」
「別に、そこまでしなくて良いから」
「そういう訳にはいかないよ。もう聞いちゃった事だし、片足突っ込んでるようなものだから」
「......でも」
それに、もし本当に監視カメラにも映らない窃盗なんだとしたら、ストーカーも僕みたいな能力者かもしれないし」
僕は必死に説得を試みる。というのにも少し理由があった。もちろん善意もあるのだけれど、6割ぐらいは樋口さんの連絡先を聞き出したいという邪な考えがあった。
「アリスもそれが良いと思うの。ストーカーが居るなら男の可能性もあるの。だから男手があって損はないのー!」
思いもよらない方向から助け舟が!!!
もしかしたら、もしかするかもしれない。
「ほら、アリスもそう言ってるし」
「さんをつけるのデコ助野郎!!!」
「あ、アリスさんも、そう言ってるし」
「......そうね、分かったから」
「じゃあ連絡先交換しない?もしもって時に連絡とれた方が......」
「............。」
「露骨に嫌な顔するにやめてよ」
「条件、今後私の許可なしに私の話題を出さない事。これが守れるなら交換しても良い」
「分かった。絶対守るよ」
「あと変な噂について生徒全員から記憶を消してきなさい」
「流石にそれはちょっと」
「じゃあ誤解を解きなさいよ!絶対だから!」
「分かった、分かったから」
そして僕はクラスの美少女の連絡先を手に入れる事に成功した。
*
昼休みの教室に戻る。
弁当を再度突きながら、時間ギリギリの食事を再開する。スマホのLIKEに樋口さんのアカウントが口角が緩む。素直に嬉しい。
「って、おぉぉぉおおおおいいい!!!!」
突如親友からドロップキックを喰らう。僕は椅子から放り出されて地面に顔を埋める。
「テメェ!さっきのは何だったんだよ!告白されたのか!?まさかそうなのか!?」
「なんでもないって」
「そんな訳ねぇだろ!」
いつの間にか僕の席には男子生徒が群がって居た。
「ンボクゥ、も説明が欲しいですね」
「クラスのアイドルの樋口さんに手を出すとは良い度胸でヤンス!」
「だから、本当に何でもないって」
「あーーーー!!!!コイツのLIKE交換してやがる!」
「馬鹿やろぉがぁああ!!大事にするなぁぁぁぁああああああ」
その日、僕は男子全員から恨みを買った(半分冗談だけど)。その日の夕方、樋口さんからは『あんたマジでこれ以上大事にしたら覚えとけよ』とメッセージが送られてきた。
ヤバいかもしれない。
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