ぶるーむ☆すたー @ランデブー

@makaaaaaan1182

第1話 クラスメイトのひみつ

 人は完璧ではない。

 誰だって全てがそつなくこなせる訳じゃないし、失敗することだってあるだろう。

 だから将来、それを許せる人間になれたら良いななんて僕は思う。

 なにが言いたいかと言えば、僕が忘れ物をしてしまったのは仕方がない事故であり、それが不運な事件に繋がったとしても、それは僕の責任ではないということだ。





 茜色に染まる空。不運にも家の鍵を忘れてしまった僕は電車をとんぼ返りで教室へと戻るところだった。

 誰もいない廊下をひとり寂しく歩いていると、教室から気配を感じる。

「だから忘れてたんだから仕方ないって言ってるでしょ!?」

「絶対にって言ったのー!!」

 教室前で聞き耳を立てる。何やら喧嘩らしい。二人きりなのか、随分と白熱している様子だ。入りずらい。

 とはいえ今日はただでさえ長い下校を繰り返すという最悪な一日なので面倒ごとはごめんだ。

 出来るだけ刺激のないようにスッと入って鍵を拾ってフェードアウトしよう。

 決意を胸にドアを開ける。そこには、些か異様な光景があった。

 目についたのは人形だった。その球体人形らしきそれは物理学を無視して宙にふわふわと浮いている。それにまるで人間のように表情を変えながら文句を言っていた。文句を言われているのはクラスで3番目ぐらいの美女(当社比)の樋口琴音ひぐちことねさん。

「誰ッ!?」

「えっと......あの」

 樋口さんの鋭い目線を向けられる。人形は引き攣った顔を見せると地面に落ち、さも人形かのように力無く机に倒れた。

「あの、鍵忘れたから......取りに来たんだけど」

 とにかく、僕はこの状況を理解出来なかった。ただ宙に浮く人形なら僕の見間違いで納得できたかもしれない。しかし先程まで喧嘩をしていた割には教室には樋口さんしかいない。

「そ、そそ、そうなの?じゃあ、ど、どう、どうぞ?」

 明らかな動揺が見てとれた。どうしていいか分からず、あたふたしているのがあからさまに見てとれる。確かに僕もどうして良いか分からない。樋口さんと特段仲が良いわけでもないし、随分と気まずい。

 スタスタと机に入っていた鍵を取る。

「じゃあ、あったから......」

「う、うん」

 なんだかしてはいけない事をしてしまった気分だ。沢山の疑問と疑念が頭の中に湧いてくる。好奇心か、僕は結局、その疑問を口に出してしまう。

「その、机の人形って」

「人形!?いや、これ私のじゃないかなー?」

 流石に嘘だとすぐに分かった。

「じゃあさっきの喧嘩みたいな話し声って」

「あー、その......そう!演劇の練習で!」

「樋口さんって確か運動部だよね」

「............。」

「......いや、その。ごめん」

「確か君、千秋くんだったよね」

「う、うん。そうだけど」

「今日ここではなにもなかった、いい?」

「え、どういう」

 樋口さんは僕に高圧的に踏み込む。逃げる僕に距離を詰め、壁を強く叩きつける。そして右手を顔面スレスレにドンッ!

 壁ドンという奴だった。

 たぶんだいぶ違う。

「今日の事誰かに言いふらしたら殺すから」

 彼女の目は随分と必死で血走っていた。言いふらしたら本当に殺されそうな迫力だった。

 そんな中、申し訳ないのだけれど、僕は内心ドキドキしていた。クラスでも(比較的)美人の樋口さんと2人きりの教室で至近距離。本当に申し訳ないけれど心臓がもたない。

 彼女からいい匂いがする気がして頭がぐるぐる混乱してきた。

「あの、分かったから。だからその、ね?」

「......分かったなら、もう行って。全ての記憶を消して?」

「流石にそれは無理じゃないかな?」

「じゃあ殴って二度と思い出せないように......」

「もう全部忘れました!今日はなにもない平凡な1日でした!」

 僕は彼女から逃げるように学校を後にした。その日は随分と災難だったと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る