第2話 ハジメテの脅迫♣️

 あ、先輩。こっちこっち、こっちですよ。

 

 すみません、先輩。旧校舎の第2図書室なんて、辺鄙へんぴな場所に呼び出したりして。


 ……え? この通称『開かずの図書室』に、どうして出入りできるのか、って? 

 私、図書委員なんです。本の整理のため、って言えば、先生に鍵を借りられるんですよ。


 君は……、って、覚えてませんか? 1年B組の笹目ユキですよ、風紀委員長の桐生聡太先輩。

 このあいだ、抜き打ちの持ち物検査で、先輩にゲーム機を没収されちゃった、笹目ユキです。……思い出してもらえましたか? 

 

 ……え、あのゲーム機はどうしたか、って? 先輩に言われた通り、放課後に職員室に行って、先生からお説教を受けて、それで返してもらいました。 

 

 無事に返してもらえてよかった、って……。

 (よくないですよ……)

 ……いえ、なんでもないです。


 ……ところで先輩。私が先輩の下駄箱に入れておいた手紙、読んでくれたんですね。

 こうしてここまで来てくれたんですから、当たり前か。あはは……。


 ラブレターかと思いました? 下駄箱に手紙なんて、古典的なシチュエーションですもんね。

 だけど、最近ってどうなんでしょう? みんなケータイ持ってるし、手紙で呼び出すなんてやり方、しないんでしょうか?

 でも、連絡先を交換してない相手だとメールも送れないし、やっぱり今でも有効なんでしょうか?


 ……すみません、今はそんな話、どうでもいいですね。

 それに、私が書いたのはラブレターじゃないですし。


『桐生聡太先輩へ。先週金曜日の深夜、町外れのファミレスで、先輩が女の子と一緒にいるところを見かけました。失礼ながら、写メを撮らせてもらいましたので、証拠として写真を同封します。深夜の逢い引きは、風紀委員長としてふさわしい行動なのでしょうか? もし、このことを学校側に伝えられたくなければ、放課後、ひとりで旧校舎の第2図書室まで来てください。お待ちしています』


 えへへ……、何度も書き直したんで、書いた文章覚えちゃいました。

 脅迫状……って言うんでしょうか、こういうの。私、ミステリーとかよく読みますし、お話の中には脅迫状って出てきたりしますけど、自分で書くのは初めてで……。

 ……どうですか? うまく書けてましたか? なるべく端的に要件を書いたつもりだったんですけど。

 ……ちゃんと伝わった? ならよかったです。


 三年生の先輩にとって、内申に響くような告げ口は避けたいんじゃないかな、って思ったんですが、効果覿面てきめんでしたね。よかったです。


 ……先輩。

 告げ口、されたくないですよね……?  

 だから、こうして来てくれたんですもんね……? 

 交換条件がある、って言ったら、聞くつもりはありますよね……?

 (……よかったです)

 


 ……なら、先輩。

 私の気が晴れるまで……私のド、『ドレイ』になってください!


 拒否権なんて、ありませんから!

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