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月が一番高くなる頃、ルカは蛹の番をするため一人(正確には二人)で倉庫にこもっていた。階段の一番下の段差に腰掛け膝に頬杖をつく。焚いた篝火がぱちぱちと奏でる音を聞き、揺れる影を横目にしながらラルフの人生について考えていた。
リオラが眠りについてからはや四年。ラルフは毎日のようにここへ通い詰めた。
返事が来ないことは、ラルフもわかっていたはずだ。なのに兵役で忙しくても時間を見つけては毎日来て一人、その日の出来事を語る。面白おかしかったこと、新たな発見などを朗らかに語っては、返事のない黒い塊を寂しそうに眺めて、暗い面持ちで去っていった。
エミリーも毎日ではないが一週間に一回は来て、蛹に引っ付いた埃を拭き取ったり、ラルフと同じように話しかけたりしていた。この布を掛けたのもエミリーだ。篝火を焚いていては明るくて眠れないだろうと掛けてやったのだ。エミリーは母親のような姉のような愛情をリオラに注いでいたのだ。
そうやって二人はリオラのことを思い続けて今に至る。
それなのに——、明日には、この黒い塊を運び出さなければならないというのに、リオラは蛹に
「いったい、いつになったら其方はそこから出てくるのだ。かけがえのない友を、大切な恋人を不幸にするつもりか!」
その時、蛹が一瞬だけ、光を放った。一度ではない。二度三度と、布をかぶせられていてもはっきりとわかる程、強い光を放つ。蛹がまるで心臓のように脈打っているように見えた。
「これはいったい?」
ルカは立ち上がり、蛹のそばまで歩み寄った。布を捲り上げ、触れてみようと手を伸ばすと、蛹はヒビが入り、上方の一部が崩れ落ちた。崩れたところには人の顔程の大きさの穴が開き、中を覗き込めそうだった。
「リオラ……、まさか目覚めたのか——?」
ルカは中を覗き込もうと穴に顔を近づける。すると、中から白い腕が目の前に伸ばされ、額に指が触れた。その瞬間、ルカは力が抜けたように倒れ込み、眠ってしまった。
蛹は上の方からどんどん崩れ落ちる。落ちていく欠片は砂のように形がなくなりあたりに散布した。
上半分がなくなったところで、リオラは立ち上がった。眠る前よりも大きく体が成長している。背丈は伸び、肩や骨盤周りは丸みを帯びていた。胸も臀部も厚みを増していて、もう子供の体ではない——、年頃の少女の体に変わっていた。成長を阻害しないためなのか着ていた服は首にかけられた指輪を除き、全てなくなっている。
リオラは蛹を覆っていた布を引き込み、その布を頭から被った。体全体が隠れるように布を巻き付け、はだけないように握りしめた。
リオラは残った蛹の下半分に足をかける。星の子を守るという役目を果たしたその結晶は、まるで砂のように崩れ一瞬で形がなくなった。
ラルフ……、どこ……?
伝えなければいけないことがある。
リオラは、ラルフを求め倉庫を出た。
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