第3話 期待してもいいのでしょうか
この休みの間にお父様は、アーロン様の父君であるボールドウィン伯爵の元へ出向き、婚約解消の手続きをしてくれた。
そして婚約解消が無事に済んだ事を聞いたのは、学園に行く前日だった。
「フローラ、婚約は無事解消になった。あちらからは慰謝料も支払われたから、もう全て片付いたんだ。明日からは今まで以上に堂々としていたらいいからな」
「本当にありがとうございます。あのお父様、私の新たな婚約者なのですが……」
「あぁ、それは気にしなくていい。今度はもう勝手に決めたりしない。フローラがいいと思った相手でいいからな。我が家は一人娘だからいずれは婿を取らないといけないけれど、今回の件で私も反省したんだ。だからフローラの気持ちを蔑ろにはしないと約束する」
お父様にそう言ってもらい、安心して翌日から学園に行く事が出来た。
クラスに入るとマクシミリアン様が既にいたので、挨拶をして席に着いた。
私達は席が前後なので、マクシミリアン様は以前から周囲の視線からさりげなく守ってくれていた節があった。
「フローラ嬢、おはよう。顔色が良さそうで安心したよ。その様子だと上手く話が出来たのか?」
「はい。父と話しが出来て、無事に婚約解消となりました。あの日、マクシミリアン様に背中を押して頂かなかったらきっと今もまだ一人で悩んでいたと思います。本当にありがとうございました」
「いや、俺は苦しんでいる君を見て元婚約者が許せなくて……あ、いや今のは一回忘れてくれ」
顔を赤らめて黙ってしまったマクシミリアン様に、私は自身の胸が高鳴るのを抑える事が出来なかった。
もしかしたら私の思い違いかもしれない。
勘違いしてはダメ……
でも、私はこの考えを止める事が出来ないし、私の勘違いであって欲しくない。
だって私は——
「フローラ嬢」
突然声を掛けられ一気に現実に引き戻されると、マクシミリアン様が真剣な顔をしていつの間にか私の手を取り、まるでプロポーズの時のような姿勢をとっていた。
「今度の週末、伯爵家にお邪魔してもいいだろうか。すぐに分かる事だから今言うけど、君に正式に求婚したい。我が侯爵家からの申し出にはなるが、これは俺がどうしても君と結婚したくて申し込むんだ」
「……」
「婚約解消後、間も空けずにこんな事を言うのは間違っていると思う。でも貴女を愛してるんだ、どうか俺の手を取ってほしい」
あまりにも真っ直ぐなそのプロポーズに、私の心は歓喜に震えた。
元婚約者の事でずっと陰口を言われていた時も、マクシミリアン様がいつもさりげなく周囲のフォローをしてくれていた。
誰にも伝えた事はなかったけれど、私は彼がもうずっと前から好きだ。
そしてそんな彼に、こんなにも真っ直ぐにプロポーズされて嬉しくないはずがない。
「本当に私でいいのですか?だって私は……」
「君は悪くないだろう?俺はずっと元婚約者の仕打ちに耐えている君を見てきた。見ている事しか出来ない自分に、何度も己の無力さを痛感したよ。俺ならこんな風に悲しませたりしないのにと何度も思った。こんな言い方間違っていると思うけど、やっと俺にもチャンスが来たんだ。だから絶対に諦めたくない。俺を見て知ってほしい。判断するのは俺を知ってからでも遅くないと思うんだ」
あぁ、それ以上は本当にやめて欲しい。
今にも歓喜で叫び出しそうな自分を抑える事で必死なのに。これ以上私の令嬢としての仮面を剥がそうとしないでほしい。
それでも私は声が震えそうになりながら、マクシミリアン様に自分の気持ちを伝える。
「マクシミリアン様は周囲の評判を気にせず、私という一人の人間をきちんと見てくださいました。私はずっと貴方に救われていたのです。もうずっと前から、私はマクシミリアン様をお慕いしています」
あまりに恥ずかしくてだんだん声が小さくなってしまったけど、きちんと自分の気持ちを伝える事ができた。
伝えた途端、マクシミリアン様のお顔が真っ赤になっていて、それを見た私まで顔が赤くなってしまったのは仕方がないと思う。
「ほ、本当に?フローラ嬢、本当に?」
信じられないと目を見開いているマクシミリアン様に、
「私には婚約者がおりましたので」
「あ、そうだよな……すまない、嬉しくて何度も訊いてしまった。でも嬉しい」
そう言って心から幸せそうに笑うマクシミリアン様に、私も幸せを分けてもらったように自然と笑顔になる事が出来た。
その時不意に咳払いする音が聞こえ、慌てて辺りを見渡すと先生や同級生達が集まってきていた。
すっかり忘れていたが、ここは教室だった。
あまりの恥ずかしさに、思わず俯きそうになった私の手を、マクシミリアン様が優しく握りしめてくれる。
俯きそうになった顔を上げると、笑顔のマクシミリアン様と目が合う。
そしてそのまま彼は先生や同級生に、
「朝からお騒がせしてすみません。ずっと好きだった彼女に婚約者がいないと聞いたので、気持ちを抑える事が出来ませんでした」
真っ直ぐそう言ってのけたマクシミリアン様に、周りの方が動揺していた。
私だってこんなに真っ直ぐ好きだと言われて、本音は歓喜で踊り出したい気分だった。
きっと表情だって人前に出てはいけないような酷い状態だろう事はわかる。
「き、君はとても情熱的な人だったんだね。先生は生徒の新たな一面を知れて嬉しいよ」
と、男性の先生すらも頬を赤らめ、その場にいた同級生の令嬢も頬を赤らめていた。
学園に通い出して、こんなに幸せを感じた事は今まで一度もなかった。
ずっとずっと苦しかった。でも今私は幸せを感じてる。
これからの未来を想像し、自然と笑顔になれる。
私達の未来は始まったばかり。
努力を怠らず、これからもマクシミリアン様に好きでいてもらえるように、私は努力していきたい。
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