第5話 微笑み係ゆえに
「威圧感……? そうか。あっ、もしかして、俺って、志原にも怖がられてる?」
私の言葉で、急に我に返った様子で気にし始めた岸沼君。
そんな事なんて気にするような感じには、全然見えない人なのに……
もしかして、見掛け倒しで小心者とか……?
志原君は、確かに岸沼君を怖がっているかも知れないけど……それは、私の岸沼君に対する感覚と違うと思う。
きっと、志原君にとって、岸沼君って人は、未知の領域へと強引に引っ張って行くような意味での怖い存在なんだと思う。
「志原君は……岸沼君の事、ある意味、怖く思っていると思います」
「やっぱり、志原に、怖がられているのか......」
ホントに、思ったよりずっと
岸沼君って、見かけも話し方もぶっきらぼうで怖い感じなのに、志原君に関しては、こんなに心配性になってしまうって、ホントに意外過ぎる!
私、男心もゲイ心も全く分からないけど、岸沼君は、けっこう一途なのかも知れない事だけは感じ取れた。
「どうしたら、志原に怖がられないで済むかな、俺?」
そんな事を男心とか理解出来てない私なんかに、尋ねて来る?
でも、そうだよね。
志原君本人には、きっと聞けないのかも知れない。
だって、志原君は、あの通り、お日様みたいに明るくて暖かいキラキラキャラだから、無理難題だったとしても、多分、笑顔で通しちゃうだろうし……
そんな風に笑顔見せているから、気持ち的にいつだって肯定的でいると、周りからは勘違いされてしまうんだよね。
「そうですね。岸沼君は、志原君を見習って、少しはフレンドリーな感じになってみるとか」
「お前、俺にそんな事を強要しようとしてんのか?」
凄味の利いた低音の声を至近距離で聞いて、そんな鋭い目付きで
「えっ、あの、だから、つまり……そういう口調と、その睨み方は、けっこう私にとってはキツイんです!」
取り敢えず、その事は伝えとかなきゃ!
そんな態度ずっと取られていたら、『微笑み係』の私の任期中は何とかガマン出来たとしても、期間外れると、私からは金輪際近付きたくないもの!
「なるほど~! お前の意見は聞いてないが、もしかすると、志原もそう感じているんだったら、ショックだ!」
私の意見は聞いてないって......?
そっちが、尋ねて来たくせに、どうして、私は部外者みたいに、突き放すような言い方するんだろう?
そりゃあ、今、気になっているのは、志原君の気持ちだし、岸沼君の恋愛対象から私は外れているかも知れないけど......
「志原君は、とても人当たり良くて、女子にも共感してくれる事が多い人だから、きっと私と同意見です!」
頭に来たから、志原君について勘繰っていた事とは正反対の私の気持ちをそのまま通してしまった。
「はいはい、分かった、分かった! 仕方ないな~、気を付けてみる事にする!」
私が強く言い切ったから、志原君も同意見だと思わせる事に成功したみたい!
これで、今後は、あんな言動を改めようとしてくれるかな?
まだ転校して来て間もないのに、志原君の為なら、努力をしてみる姿勢でいるんだ、岸沼君は。
男同士の友情も熱い感じだけど、ゲイの愛情っていうのかな?
それも、男同士の友情にも勝るものなのかな?
女同士の友情って、どうだろう?
例えば、真緒と私……
真緒って、私以外のクラスの女子とも、わりと気さくに誰とでも仲良く出来てしまうタイプ。
私はというと、真緒を通してしか、他の女子とは話さないし、自分から話しかける事もホントは苦手……
そんな私が『微笑み係』に決まった時は、何だか、悪い冗談なのかと思った。
もっと人気者で、誰とも仲良くて、誰からも声かけられやすい、そういう生徒がなるものだとばかり思っていた。
引っ込み思案な私の性格で『微笑み係』なんて、すごく荷が重いって、正直思っているんだけど……
なぜかクラスメイト達に投票されて決まってしまったから、降りるなんて出来ない。
自分なんかに務まるのかって不安でいっぱいだったけど、何度も真緒が励ましてくれて、協力してくれているから、何とか頑張って続けていられる!
うん、真緒が付いてくれているおかげだね!
こうして、離れている時でも、きっと、真緒は遠くから励ましてくれているんだって分かっているから、心強い!
だから、微笑み係の役職を全うした時には、真緒の念願が叶って、志原君と付き合ってくれたらなんて思っていたのに……
まさか、転校生の男子が、真緒の強力なライバルとは!
しかも、よりによって志原君自身が、強引にキスされたせいで、気持ちがかなり岸沼君寄りになっている感じするし……
このままだと『微笑み係』期間中に、規則上、交際は禁止されているとはいえ、気持ち的には、どんどん岸沼君との愛が育まれそう!
プラトニックラブ期間に気持ちが高まって、『微笑み係』解除後は、一気に2人の関係が進展しそうな予感も!
何とかしなきゃ!!
幸い、その為だけの役割のように、私が『微笑み係』として、2人の間に割り込めているのだから!
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