第11話

 様々な雑談を交わしながら歩いていると、学園の門が見えた。

 俺たちは門をくぐった後、少々の雑談を交わす。

 雑談を交わしていく内に辺りが暗くなっていた。

「ほんじゃクロノ、また明日な~」

「おう」

「メイナちゃんも、またね~」

「はいっ!」

「……また明日」

 俺たちは別れの言葉を告げると、メアリとアンナは女子寮へと戻って行った。

「じゃ、俺たちも行くか」

「はい!」

 メイナにそう言うと、俺は持っていた紙袋を担ぎ直し、学園長室へと歩を進めた。


「今日は、ありがとうございました」

「ん?何がだ」

「いろいろ、です」

「……あぁ」

 そう、素直にお礼を言われ、少し頬が赤くなるのを感じた。

 その気恥かしさからか、俺は少し歩を早めた。

 学園長室の扉の前に着くと、俺は紙袋を持つのとは反対の手で扉を3回ほど軽くノックした。

 だが、数秒待つも返事はない。俺はそのことを疑問に思いつつ静かに扉を少し空けた。

 明かりはしっかりと付いているが、何の音も聞こえない。俺は扉をしっかりと開けると、部屋の奥の机に備え付けられているデスクチェアーにもたれかかり、目を閉じていた。

「なんだ、寝てるのか」

 俺は少女と共に学園長室へ入室すると、中央に備え付けられたソファに紙袋を置き、学園長へと近づいた。

「母さん、そんなところで寝てると風邪ひくよ?」

「……」

 そう声をかけるも学園長は起き上がらなかった。家にいた時はこれで大体起きるはずなのだが……まぁ、それだけ深く眠っているという事なのだろう。

 そう、思っていた。

「ん?」

 だが、良く見ると学園長の腹部から赤い液体が床にしいてあるソファに零れているのが見えた。

「え?」

 それは、時が立つごとにソファに零れ落ちる。その染みは除々に広がっていった。


..再生

「母さん、母さん!」

 俺は、学園長の手を握りしめながら、小さな子供のように泣いていた。

 こんなことをしても意味なんてない。それは分かっているのだが、今はそうしていたかった。

 少女は部屋の隅で、手で口を押さえながら泣いていた。こんな状況を見てしまったためだろう。

 本日は休みだからか、職員室から学園長室はかなり離れた場所にあるからか、教師は誰も来ない。

 学園長室の中には一応電話があり、職員室にもすぐに繋がる。

 それに気付き、俺は電話をかけようと受話器に手を伸ばした。だが……。

「クロノ……君?」

「母さん!」

 受話器を取ろうとした手を学園長に遮られる。

 その手は、もはや暖かさと言うものを失っていて、氷のように冷たかった。

 それでも、掴まれたその手に温もりを感じていた。

「母さん、まってて、今電話を……」

「ううん、良いから……それよりも」

「なに?母さん」

 すると、学園長は柔らかな笑みを浮かべた。

「お帰り、クロノ君……」

 その言葉が弱弱しく発せられる。

「うん……ただいま、母さん」

 それを聞いた学園長は優しく微笑むも、すぐに目を閉じてしまう。

「母さん?母さん!」

 その後、何度声をかけても学園長が目を覚ますことはなかった。


 と、その時だった。

 繋いでいた学園長の手に、温かさが戻ってきたのは。

「え……」

 それを不思議は不思議な出来事だった。何で死んだ人間の手が、生きているのと同じくらい暖かいのか。

 念のため、手で少女を呼び寄せ、少女にも確認してもらったが、帰ってきたのは「温かい」という言葉だった。

 次に、血が付着していた腹部からカーペットまでを見てみる。

「なっ!?」

 そこで俺は驚愕した。

 カーペットにも学園長の腹部にも、先程まであった血の跡がなかった。

 新たな疑問が増えたところで、至近距離から声が聞こえた。

 それは、もう聞きなれた声、家族の、声だった。

「クロノ、君?」

「母さん!?」

 その声をする方向に顔を向けると、やはり学園長に顔が見えた。

 まるで眠っていた少女が目を覚ました時のような顔だった。

 俺は、それが嬉しくて、学園長の顔を見た瞬間、抱きついた。

 学園長は戸惑いも声をあげていたが、次には俺の頭を、撫でてくれていた。

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