第8話 チー牛魔王覚醒

 撃鉄が降ろされ、目の前の子供たちは脳天が吹っ飛び死ぬ。


 その場にいる誰もがそう思っていただろう。


 しかし、その予想に反した結果が待っていた。


 2人の子供たちは何も無かったように平然と立っている。


 いや、麻生まおうは恐怖で気絶したまま立っている。


 『ど…どうゆうことだ?』


 幹部の男は夢でも見ているような気分に違いない。


 銃弾は確実に放たれた。


 だというのに、目の前の子供たちは脳天が吹っ飛ぶどころか転倒すらしていない。


 幹部の男は目の前の光景に理解が追いつかず、ただ呆然としてしまう。


 「こんなものか…やはり変哲のない武器では我ら妖魔には傷すらつけられないのは千年以上経っても同じか」


 小・羅刹シャオ・ラセツは1人で何やら分析をして呟いていた。


 「起きろコウタ」


 気絶している麻生まおうの脛を蹴って目を覚まさせる。


 「あっ!ここは天国ですか」


 目を覚ました麻生まおうは自分が死んだものだと錯覚している。


 「寝ぼけているのか?」

 「えっ生きているんですか!?銃で撃たれたはずなのに」

 「だから殺せるわけないと言っただろう」

 「言われましたけど…」


 『お、お前ら何者だ…?』


 幹部の男と子分の男たちは銃で撃たれても平然と会話している2人の子分たちに恐怖を感じ始めた。


 子分の男たちなど腰が引けて、後退りを始める者もいる。


 「見ろコウタ…この人間たちの身体から黒い瘴気が出始めただろう」

 「あっホントですね」

 「あれが人間の恐怖や畏怖の念だ」

 「あれが…」


 禍々しいオーラが男たちから湧き上がるのが麻生まおうには見えた。


 その禍々しさたるや、人の負の念を凝縮したものだと言われても頷ける。


 「あれが我が父上の魂の栄養となるのだ。さぁ、取り込めコウタ」

 「ど、どうすればいいんですか?」

 「取り込むイメージをしろ。お前に対しての恐怖や畏怖は自然にお前の元へとやって来る」

 「は…はい」


 麻生まおうは瞼を閉じた。


 そして、あの禍々しいオーラが自分の元へと取り込まれるイメージをしてみる。


 すると、モヤモヤと浮いていたはずの禍々しいオーラが突如、麻生まおうの元に吸われるように集まってきた。


 「おぇ〜!何だこの感覚…気持ち悪い」


 ズズズと自分の心に無理やり割り込んでくる禍々しいオーラに不快感を覚え思わず嘔吐えずいてしまう麻生まおう


 腹部を手で押さえて必死に不快感と戦っている。


 「どうだ?コウタ。みなぎるようだろう」

 「みなぎるどころか張り裂けそうです…」

 「フフフ、けっこうなことだ。そのまま無理して押さえてないで、いっそ張り裂けてしまえ」

 「えっ…?」


 「父上の力を解放してみろと言っているんだ」


 小・羅刹シャオ・ラセツは、そう言うが麻生まおうには何が何だか分からない。


 しかし、聞いたところで親切に教えてくれるはずもないので、とりあえず自分なりの理解で試してみることにした。


 「わ、分かりました」


 麻生まおうは言われるがまま堪らえることを辞めた。


 押さえていた手をストンと降ろし、できる限り脱力をする。


 すると、オーラが全身を駆け巡り出したのを感じた。


 むず痒いというか、血管が耐えきれず張り裂けるのではないかというくらいほとばしるオーラは麻生まおうの髪の毛を逆立て華奢きゃしゃな肉体を少しばかり豊かにしてみせた。

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