2 1-F 組、異能組
次の日が入学式だった。
20XX年4月5日、金曜日。
最初は天気がよかったのに、時間が進むにつれて曇ってしまった。
しかし校舎に植えてある桜は曇天のほうがきれいにみえる。
青蘭寮は6時起床だ。
身支度を整え―とはいっても野郎ばかりなので、顔を洗ったり着替えをすますだけだが―7時半に朝食。
朝食は3号館にある大食堂で食べられる。
ビュッフェ形式でなので、みんな大喜びだ。
品揃えは豪華ではないがパン各種やごはん、野菜果物、卵料理やソーセージ、ヨーグルトまでそろっている。
「おはようスズナ、ユイ、サーラ!
昨日会わなかったな」
セーラー服に青リボンの彼女らを見るのは新鮮だった。
サーラ達も口をそろえて挨拶してきた。
昨日の昼過ぎに入寮したらしい。
おれたちがここに着いた2時間ほど後だろう。
「なにせスマホ禁止だもんね。
パソコンは本館のみで使えるらしいけど・・・」
スズナがため息をつく。
「同じ寮の人、どう?
おれなんか最初から殴られたぜ」
ダイスケが言った。
近くに水戸ゴリラがいて、視線に火の粉が飛び散る。
「初対面でタイマン?
犬みたいね」
くすりとユイが笑った。
さっきからゴリラが彼女を見てもじもじしている。
「あるじさ・・・いや、ユウマ。
同室に妙な娘がいました。
名前は平野のりこという人で、妙に攻撃的なのです。
ほら、あそこ」
彼女が示す方を見た。
食堂の端に一人、少女が二人座っている。
一人は長い髪を二つのお団子に結い、何やらべらべらしゃべっている。
もう一人は小柄でおかっぱ、前髪ぱっつんの少女だ。
「あのおかっぱちゃんが平野さんよ。
ついでもってお団子の子は劉
お父さんがあちらの退魔師だったとか」
「平野さんの実家はA県の
聞いたことないなあ」
スズナとユイが口々に言う。
「新興宗教系かもしれない。
あとでお父さんに聞いてみよっと。
で、彼女がすごくとげとげしいの。
特にサーラさんに」
「サーラに?
大丈夫か、サーラ・・・!」
おれの問いに彼女はうなずいた。
「問題ありません。
でもあの娘なんだか・・・」
のりこの子供っぽい円い目がこちらを向いている。
おれを見たとたん、その視線は刃に変わった。
「ヤタガラスかもしれんな。
女子組は気を付けろよ」
「女子組って?
うふふ、分かったわ」
上品にパンをちぎりつつユイが微笑んだ。
「さて、食い終わったらクラス見に行こうぜ。
同じクラスだったらいいね」
ダイスケが豪快に納豆をかき混ぜつつ言った。
「ほれ、ゴトマツも食いな」
おれは頭に張り付いている霊蛙をテーブルの上に乗せ、クロワッサンを食べさせた。
カエルは金色の目を細め、うれしそうにベロを伸ばして平らげた。
隣のテーブルにいた女の子(クリーム色のブレザーだ)が二人、泡を吹いて倒れた。
あわてて職員らしき人が駆け寄ってくる。
「おれ、悪くないよな?
だってこういう学校だろ?」
「うん、ユウマは悪くない、たぶん」
「あの娘たちも結局、視えるのですね。
ガマが姿を消してても無駄ということかしら?
仕方ない、事故ということで・・・」
ユイとサーラが言ってくれた、
「さっさとずらかった方がいいぜ。
火の粉がかかったら大変だ」
ダイスケが催促する。
おれたちはうなずき、トレイを戻して疾風のごとくそこから立ち去った。
―――
「青蘭寮はみんな同じクラス?
どういうこと?」
クラス分けの張り紙を見たサーラが話した。
「いや、男子は違うぜ。
1号室の面子は1-Fだけど、2号室の連中はE組だからな。
青蘭寮の1年女子って何人なの?」
「たった5人よ。
たったの」
おれの言葉にスズナが呻くように言った。
「2年生と3年生は12、3人いるのに。
同学年の異能女子は少ないみたいで」
教室についた。
濃い色の木材の床、白い壁紙。
大きな黒板、大きなモニター。
予想と違いまったく普通で平凡だった。
机と椅子は整頓してあり、落書きやナイフでえぐった跡はない。
少なくとも公立中学校よりは生徒の質は良いみたいだ。
「なんだおまえ」
予想は裏切られた。
大柄な男が近づいてきて、肩をグイッと掴んできたのだ。
男はクリームブレザーを着ていて醜く太り、瘢痕だらけだった。
「教室にペットをもってくるなんて。
楠木学園、なめてんのか?」
「ペット?
えっ⁉」
「
手下らしいクリームブレザー(一人が寄り目、もう一人が天パー)が騒いでいる。
「しっかし気持ち悪いカエルだよな。
飼うならイエアメの方が可愛くっていいのに。
ぎゃあああ!」
二人の髪の毛はちりちりに焦げた。
ゴトマツが怒って火を噴いたのだ。
「バカガキ、あたしに触れるんじゃないよ!
ひざまづけ、小便小僧!」
カエルが喚いた。
クリームブレザーの数人が気絶した。
「落ち着け、ゴトマツ。
にしてもおまえたち、
ゴトマツ、もう姿隠しの術はやめちまおうか?
やったってムダ・・・」
「ユウマ、この連中ももしかして能力者かも」
ダイスケがメガネを上げつつ言った。。
「阿出小路、いじめはやめろ」
後ろから日高の声が飛んできた。
紅茶色の目がクリームブレザーをねめつける。
「この
おまえ、そのうち黒木君に世話になるかもしれない。
今のうちに謝れ」
「おれに指図するな」
アバタデブは威嚇するように肩をいからせた。
「青蘭寮に入るなんて落ちぶれた様だな、日高」
「落ちぶれてなんていないさ、ポテト君」
「何ィ!」
取り巻きが日高に殴りかかった。
彼は連中の腕をつかみ、ぽん、と軽く投げる。
男らは床に放りだされた。
「ちょっとイケメンだからって、いい気になりやがって。
阿出小路は捨て台詞を吐き、去って行った。
「大丈夫か?
あいつのことは気にするな」
日高はおれに向かった。
紅茶色の目が心配そうにこちらを見ている。
クリームブレザーよりも学ランの方が似合うな、と思った。
「あ、ああ・・・。
よくわからんが、ありがとう。
変な奴だな。
いいとこの人・・・華族の子弟?」
「先祖が宇田源氏で、明治時代に子爵だったらしい。
でも今の時代、貴族制なんてないからね。
ここが良くないと」
長い指が自身の頭を指す。
「にしても、ゴトマツが視えるなんて。
ヤツも異能者なのかな」
ダイスケが言うと、日高は微かにうなずいた。
「まあ、そういうクラスなんだろうね」
「担任の先生も大変だな」
噂をすれば影、ドアが開き濃紺のスーツで身を固めた男性が教室に入ってきた。
30くらいのアンパンのようにころっとした人だ。
前髪はきちんと七三に分け、丸いメガネをかけている。
背は160センチとすこしぐらいで、顔立ちは穏やかで優しそうだった。
「皆さん席に着いて!」
アンパンが一声言うと、生徒らはおとなしく従った。
「初めまして、私は土御門
ここ1年F組の担任で、日本史担当です。
皆さん内部進学の方が多いと思いますが、外部入学の方もおられますね。
まあ、そういうわけです」
土御門は口をすぼめ、煙を吐き出した。
それは人気のウサギキャラに形を変え、歓迎のダンスをする。
しばらくすると幻のように消えてしまった。
「今のが視えるのはうちのクラスだけ。
だから皆さん、異能者としての同志なわけです。
仲良く楽しく過ごしてください」
後方から咳払いが聞こえた。
振り向くと礼服姿の浅黒い巨漢が立っていた。
黒いサングラスをつけている。
「入学おめでとう!
おれは所沢ジョージという、このクラスの副担任だ。
ついでもって米系日本人ね。
担当は英語、もちろん異能持ち」
空中から銀色の銃を取り出した。
「休みの時は退魔を生業としている。
これはおれ愛用の銃だが、もちろん人や現世の物質を傷つけることはない。
だから怖がらなくていいよ」
「所沢先生、紹介ありがとう。
じゃ皆さん前を向いて。
この学園の1年は外の約3年に相当します」
「なんだそりゃ?
ゲームの話かよ」
土御門先生の言葉に水戸ゴリラが素っ頓狂な声を出した。
ダミアンも細い目をぱちくりさせているし、ユイとスズナも顔を見合わせている。
対して内部進学者たちは沈黙したきりだ。
「特殊な結界に守られててね。
時間をできる限り引き延ばしているんだ。
かといって、逆浦島太郎状態にならないから大丈夫。
とにかく、ここで勉強すると他の学校の3倍時間が有利になるんだ。
だからがんばれよ」
「それって、年取るのも遅くなるってこと?
だとしたら、逆にヤバいよな。
もしこのことが外部に洩れたら・・・」
ぼさぼさ頭の佐久間がモゴモゴ話した。
先生の目がきらりと光る。
「大丈夫。
きみたちは何も話さないし相手も覚えていない」
瞬間、教室には白っぽい光が点滅した。
「忘却の呪文か。
えぐいことするわね。
時間まで止めちゃって、まあ」
術を解除したゴトマツが教卓に飛び乗り、土御門に話した。
「久しぶりね、マサトシ」
「久しぶりです、光枝様。
まさかガマガエルになっておられるとは」
「生きてるといろいろあるものよ、ぼうや」
アンパンはにんまりと笑った。
生徒らはというと、ほぼ全員が固まったままだ。
そうでないのは青蘭寮の面々だけ。
「み、みんなは?」
「能力があるといっても所詮低レベルだからね」
ジョージ先生がクッキーを食べつつ(!)話しはじめた。
「青蘭寮のメンバーは彼らとはわけが違う。
キミたちこそ未来の退魔師、日本最高の霊能力者になる者たちだ」
「ということで、これから試験を行います」
土御門は努めて冷静な声を出した。
「テ、テスト?
入学式の前にテスト?」
「はい」
水戸の狼狽ぶりをものともせず、先生はうなずいた。
「なに、簡単なものです。
ああ、明日は普通の学力テストだからね。
では始めましょうか。
ジョージ先生、用意はいいですか?」
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