第93話 休み明けの放課後

「やっと終わったあ……」



休み明け初日の放課後を迎えて、俺は机の上に突っ伏す。


初日は午前中で終わってくれたけれど、それでも負担はだいぶある。



「……ゆうくん、帰ろう?」



周りのクラスメイトたちがバタバタと教室を後にしていくなか、結花は俺をツンツンとつついて起こす。



「あ、ごめん」


「ううん、大丈夫だよ」



顔を上げると、窓から差し込むあたたかな日の光に照らされてる結花がいた。



俺は少しの時間だとしても待たせてしまったことに若干罪悪感を感じつつ、急いで教室を結花と後にする。



「このあと、どこか行きたいな」


「あー、いいね!」



俺たちはそんな風に話しながら校門を出る。



「おー、優希!」


「久しぶりー、結花!」



校門を出た途端、謎の2人組に捕まる。まあ、某イケメンとツッコミ担当の2人なんですけど。



「冬休み遊びたかったのに、遊べなかったから寂しかったー」



そう言いつつ天野さんは結花に抱き付く。結花は「ごめんー」と言いながら天野さんのいちゃつきに無抵抗なまま抱きつかれて微笑む。



「今ので多くの人が助かるな」


「ああ、今のは助かる(?)な」



良く分からないけど、俺の心は温かくなりました。たぶんそちらの世界にもうお邪魔してます。



「一条くん、あんまり結花を独占しすぎるのはだめだぞー? 私にもちょっと結花を味わわせてよー」


「……おう」



天野さんは結花に密着したまま、俺の方を見てジトーッとした視線を向ける。


女子ふたりがいちゃつきあったままなので、俺は翔琉と話すことにする。



「冬休み、どうだったの? てか告ったの?」


「まだ」


「おい」



一緒に校門前で出待ちしてるから、もう付き合ってんのかと思った。



「いやまだちょっと早くないか?」


「まあ焦らなくてもいいんじゃない?」


「急にテキトーだな、てめ」



女子かって言いたくなるほど振り回されてる翔琉を置いて、結花の方に行く。



「そうそう、これからどこか遊びいかない?」



天野さんは結花から離れて、パッと手を合わせながら言う。



「楽しそうだね。ゆうくん、どうする?」


「まあいつでも結花と2人で遊べるから、たまには皆でってのもありだね」


「それ、結花独占禁止法違反」


「いいね、どこ行く?」



翔琉も話の輪に加わってくる。



「カラオケとかは?」


「あーそれはやめとこ、うん」



俺はノリノリで提案してくる天野さんを止める。結花の歌ってどんな感じなんだろうか、と思うけど。


おい、某イケメン。俺は結花の歌聴きたいんだけど。



「そうだな、ボウリングとか?」



翔琉もカラオケという選択肢をなくすべく、ボウリングを候補に挙げる。



「たしかにボウリングもいいね、結花はどう?」



俺は結花にいちおう聞いてみる。



「やってみたかったんだよねー、やり方教えてくれる?」


「じゃあボウリングにしゅっぱーつ!」



天野さんが元気よく言って、俺たちは歩き始めた。



 俺たちはボウリング場に到着して、レーンの前に立つ。


「じゃあさ、私と成瀬くんvs結花と一条くんでやらない?」


「いいね、面白そう! まあ負けないからね?」



勝負をすることになって、結花は持ち前の負けず嫌いを早速発揮している。


とりあえず俺がやり方教えるところから始まるんですが結花さん。まあ教えるのは大歓迎なんだけど。


天野さんと一緒のチームになれて良かったな、翔琉。


そう思いながら翔琉の方を見やると、こちらの視線に気づいてガッツポーズしてた。もう付き合えよ。


先攻はじゃんけんの結果俺たちになった。



「あれ……?」



結花が勢いよく一投目を投げる。がしかし、球はピンの目の前でカーブしてピンは1本しか倒れなかった。



「まあ、ニ回目あるから大丈夫だよ」



結花が投げたボールは、今度はさっきと逆方向に曲がっていき、追加で2本倒した。



「……ゆうくん、お願い」


「うん、任せて」



結花は若干肩を落としてるように見える。


俺は(見た感じは)力強く頷く。やるの中学生ぶりだよ……。なんか球重くないか?


俺はゆっくりと腕を振り上げ、まっすぐ力を伝えるイメージで球を離す。



「「「おおー」」」



俺の離したボールはまっすぐ転がっていき、ピンを8本倒した。あと2本は揺れたのに倒れてくれなかった……ちくせう。



ニ投目は普通に、残ってた2本が倒れた。スペアってあんまり盛り上がらねえな……。やっぱストライク狙うしかない。



「じゃあ次、私たちだね!」



天野さんは7本+2本、翔琉は8本+1本。

……あれ、皆上手いな。



「ゆうくん、もう一回教えてもらってもいい?」


「うん、さっきの見てた感じ、もっとゆっくり投げてもいいんじゃないかな」



俺はボールを持つ結花に寄り添いながら教える。



「……こう?」



結花はさっきと比べてかなりゆっくり球を投げる。


結花の投げた球は、俺たちのまっすぐ進んでくれ……!という期待に応えて、7本ピンを倒してくれた。


そして追加で2本、合計9本。


しかし、なぜか俺たち4人の周りからは歓声に混じってため息も聞こえてくる。


なんでだよ、制服美少女がボウリングしてるんだぞ? それだけで癒しではないでしょうか。



俺はさっきの、勢いよく球を投げる結花の姿を思い出してみる。


……あ。なんでか分かったかも。


ため息ついたやつ全員ピンの代わりに立ってもらっていいかな? 俺が相手してやる。



「やったよ、ゆうくん!」



結花は俺のとこに駆け寄ってきて、ハイタッチをする。その瞬間、結花の大きな半球が揺れる。ボウリング球ぐらい体積あるんじゃないか?(思考停止)



周りから舌打ちが聞こえたかも。

やべ、俺がピンにされちまう。



「流石のチームワークだね、でも今は私たちが勝ってるからね?」


「うん、俺が頑張らないとな」



天野さんにちょっと煽られながら、俺はボールを持ってレーンの前に立った。




その後、俺たちは僅差で最終フレームを迎える。

2人ともスペア以上+αができないと敗北だ。



「頑張るから見ててね、ゆうくん?」



真剣そうな表情でそう言い残して結花はレーンに向かい、ボールを投げる。


どうなる……?



「やった!」



結花にとって本日初めてとなるストライクをここで出してきた。勝負強すぎる。


しかも、そのあとも7本+3本でスペア。


結花は、さっきの真剣そうな表情とは打って変わって、満面の笑顔で俺の方に戻ってきた。


……これ、俺も失敗できないじゃん!?


俺はカッコ悪いところは見せられないな、と思って気合いを入れて一投目を投げる。


ピンにボールが当たった音が気持ちよく響く。


ニ投目もストライクで、三投目は8本倒した。こんなに最終フレームが上手く行ったのはたぶん初めてだ。



「ゆうくん、かっこよかったよ!」



結花は少々興奮気味に、頬を赤く染めて、俺の両手を握りながら言う。



「おお、ありがと」



結花にそんなに喜んでもらえるとは……。ボウリングってこんなに達成感得られるものだったんだな。



「まあ、まだ勝負は終わってないからね?」



実は天野さんも相当な負けず嫌いだったりするのか?




翔琉と天野さんまで投げ終えて、結果発表の時間がやってきた。



「結果は……結花、一条くんペアの勝ち……? え、私たちじゃなくて?」



スコア表を見ながら、天野さんが不思議そうに言う。



「まあ、付き合ってるから、チームワークで俺たちが勝てたんじゃない?」


「マウント取ってくるなよー」



俺が言うと、翔琉は笑いながら俺の肩を軽く叩く。

はやく付き合えよ、ってことだよ。



「ま、楽しかったから、この4人でボウリング大会定期開催しますか!」


「うん、また一緒にやろう?」



結花は優しく微笑んで、次いつやる?って言ってる天野さんと話している。



「楽しかったな、翔琉」


「おう、俺としてもめちゃくちゃ楽しそうな天野さん見れて良かった」



「あと、いちゃつく2人も見れたしな」



翔琉はニヤッとして付け加える。


自分もラブコメしてるのに、俺たちのことも眺めてるんだな。この男、ほんとにラブコメ大好きだな。



俺も、またこのメンバーでどこかに行くのが待ちきれないほど楽しみになった。


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