王女とターナー領②
教会の前で行われるオープニングセレモニーは圧巻だった。
「なんで? どうして子供が讃美歌を歌えるの? それもこんなに美しい声で」
音楽はもともと教養のある貴族の領分だった。讃美歌は教会の中でも貴族出身者が学び、神への賛美と布教のために行っていたもの。まだ何も学んでいないはずの子供がこんな美しい声で歌えるなんてと、キャロライナ王女と側近の者たちは言葉も出ぬまま聞き入っていた。
「え? 孤児ですから教会のことは何でもできて当たり前ですよね」
「孤児なの⁈ まさか!」
キャロライナは信じることができなかった。孤児に対す偏見はサチを通して薄くなったはずだが、世間の常識と小さいころから聞いていた偏見に満ちた話で作られた思い込みは、簡単になくなるものではない。
それでも、そんなことを気にするより、子供たちの声が奏でる感動が上回り、気にするより聞き入る方を優先するしかないほど引き込まれていった。
合唱が終わると、すかさず聖歌隊の前で控えていた孤児たちがお芝居を始める。
アクアが温泉を作り、領民の健康を祈るという、なさそうでありそうな伝説を勝手に作り上げた脚本を書いたのも孤児たち。
作・脚色・演出・音楽、全てクリシュ発案のもと孤児の孤児による領民のための音楽劇。
「黒猫歌劇団とも違う。なにこれ! 孤児だと言わなければ王都の劇場でも通用しそうなクオリティ」
「そうですか? 四年目ですから手慣れてきましたね」
にこにことステージを見ながら答えるレイシア。
「これが、子供の……いや孤児がやっているとは」とドン引きしながらも目が離せない王女と側近たち。
満場の拍手の中音楽劇が終わると、クリシュの司会で開会が告げられた。
領民に人気がある領主のクリフトが壇上に立ち挨拶をすると、割れんばかりの拍手とクリフトコールが沸き起こった。
「なにこれ」
「お父様、領民に慕われていますから」
「いやおかしいでしょ。領主って嫌われるか恐れられるか、雲の上の存在として扱われるか……」
「まあ、田舎ですから」
王女の偏った意見に、間違った認識で答えるレイシア。
その間にクリシュがレイシアのもとにやってきた。
「お姉様も挨拶お願いします」
「え? 聞いてないけど?」
「当たり前なので伝える必要もないですよね」
「そうなの?」
腑に落ちないがクリシュが言うなら仕方がない。レイシアはキャロライナに「挨拶をするため一旦席から離れます」と伝えてたちあがった。
「待って、せっかくだから私も挨拶いたしましょう」
クリシュは目を見開いたが、「では5分程度でお願いします」とお辞儀をしてキャロライナをエスコートした。
◇
レイシアと王女がステージに立つと「「「レイシア様~」」」とあちらこちらから声が上がった。
手を挙げて、興奮状態の観客の声を止めた。
「レイシア・ターナーです。今日は素敵なゲストをご紹介させてください」
キャロライナを前に出させ、レイシアが一礼すると観客は(お嬢様が頭を下げた?)と不思議がり息をのんだ。
「ガーディアナ王国王女、キャロライナ・アール・エルサム殿下です」
領民が王女など見たこともない。予想外の紹介にシーンと静まり返った会場は、一気にどよめきにあふれた。
「静かに! 今日は私の友人として、領地の見学に参りました。失礼のないように振舞ってください。では、キャロライナ王女より一言ご挨拶を賜ります」
(言いづらくなったじゃない。まあいいわ)
キャロライナは聴衆を見てから、話し始めた。
「初めまして。キャロライナ・アール・エルサムです。本日は私の大切な友人であるレイシア様より招待を受けこちらターナー領に参りました」
(友人?)とクリフトとクリシュは驚いた。
(招待? してないよね)とレイシアは冷静に自分の行動を振り返った。
「私は昨年、グロリア学園を卒業しました。レイシアとは学園時代に知り合い、その才能とバイタリティに感銘を受けたのです」
領民が「「「おおお~!」」」と歓声を上げる。
レイシアは(なんで?)と困惑中。
「そうして、私はレイシアの作った黒猫グループで美容部門を立ち上げ、現在責任者として働いております」
王女様が黒猫グループで働いている? 領民も困惑している。彼らの多くにとっては、黒猫グループといえば町の石鹸工場や食肉加工工場で働くこと。働くのイメージが違っていた。
「レイシアは、私にとって友人であり、仕事仲間であり、尊敬しあえる親友です」
「「「おおおおお~!」」」と歓声が上がる。
(親友だったっけ?)とレイシアが首を傾げる。
「素晴らしいオープニングを拝見いたしました。レイシアを育てたこのターナーの地と領主一族の素晴らしさを垣間見るようでした。王家はこのターナー領に注目しております。皆様に幸福が訪れることを願っております」
言いたいだけ言って後ろに引っ込んだ王女キャロライナ。場内は王女の絶賛とも言える挨拶に拍手喝采で応えた。
領民の興奮が冷めやらぬままの会場にオルガンの音が流れた。
チャン♪チャラチャラララ♪ チャン♪チャラチャラララ♪ チャチャチャ チャララン♪ チャラ チャン チャン♫
会場がスーハーの掛け声と体の動きで一体化した。
そのあまりの一体化に王女一行はドン引きしていたのはまた別のお話
『水の女神アクアに捧げる農耕祭。サクランボフェスティバル』、スタートです。
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