アリアとヒラタ家女子会

 ヒラタ伯爵家では、アリアを迎え入れるために大変な出費と準備をしなければいけなかった。


 他家から娘をもらう。グレイ家に払う身請け金は王家が持ってくれたのだが、それ以外にも金はかかる。


 部屋の改築と家具の準備。下着から普段着、果ては状況に応じたドレスの数々。男爵家のドレスと伯爵家のドレスは値段も質も段違いのもの。ストッキング一つから変えなければいけない。


 靴だって状況に応じて必要なものが違う。さらにドレスの色や形とのコーディネートも考えると10足や20足では事足りない。帽子、手袋、装飾品、鞄、文房具。その他諸々を一気に揃えなければいけない。


 子供の成長に合わせて揃えるのと、一気に揃えなければいけないのはまったく違う。さらにそれを最速で作らせることは、さらに大変なことになるのだ。


 他にも、男爵から伯爵へのグレードを担保するための家庭教師の確保。

 ガーベラのおかげで学園でのフォローはできたが、夏休みの間に本格的に令嬢として一流の対応ができるように仕込まなければいけない。


 養子を迎えたことを、関係の深い他家の領主にお知らせするパーティーを開いてお披露目させなければいけない。


 そんな気苦労と資金をつぎ込みながら、ヒラタの領主一家はアリアを迎えるために奮闘していたのだった。



 初めは遠慮からなかなか打ち解けることができなかったアリアだったが、ビオラが姉や母とお茶会を頻繁に開き、そこでアリアに話題を振ることで少しずつ打ち解けることができるようになった。


 王子との話題を振られるたびに、アリアは生徒会での話や、食事に誘われた時のエピソードを語った。そのたびに「キャー」という嬌声が上がると、アリアは王子のことを意識することになった。

 王子から頂いた宝石を見せた時には、三人のテンションが振り切れた。


「キャー!」

「さすが王子!」

「これが本気の……クリシュ様に頂いたのと比べてはいけない……」


 目をぎらつかせながら、宝石の素晴らしさを語られると、アリアは自分がどれだけアルフレッドから思われているのかを確認することになった。


「これで何が不安なのよ」


 ダリアがあきれたように突っ込んだ。


「そうは言われても……私みたいな者が」

「私みたいな者? なにそれ?」


「だって生まれも育ちも会長とは」


「そんなのはどうにでもなるの。生まれをどうにかするために、あなたは今私の妹になっているのでしょう。あなたはヒラタ伯爵令嬢。今の身分はそれ以上でも以下でもない。胸を張って生きなさい。ビオラと同じ私の妹としてね」


「は、はい」


「貴族令嬢の爵位なんてね、いくらでも変えることができるのよ。アリア、あなたは生まれは平民かもしれないけど、育ったのは男爵家。今は伯爵令嬢。そのうち侯爵か公爵の令嬢になるでしょう。そして結婚したら王族になるのよ。その時に『私なんて』って言ったらダメ。自信を持ちなさい。アルフレッド王子に愛されている自信をね」


「自信……ですか」


「私はね、ゼミでアルフレッド王子も、あなたのライバルのレイシア様も見ているの。あなたはレイシア様とは正反対ね」


「レイシア様ってどういう方なのですか?」


 まともに挨拶もしたことがない、たまにすれ違うだけのレイシアは、アリアの中で謎の人物として存在していた。


「レイシア様? なんというかパワフルな方です。好きなことを好き勝手にやらかして、誰も止めようとしない。アルフレッド様にも恋愛感情はないわね、あれは」


「そうなのですか?」


「そうね。なんというか、友情? そんな感じでつながっているお二人です。アルフレッド様はレイシア様にあなたのことを惚気ている時もあるのですよ」


 そういえば、レイシア様のことを会長から聞いたことはないな。とアリアは心の中でつぶやいた。


「自信を持ちなさい。私が見る限りアルフレッド様はあなたにべた惚れしているから。私のことは本当の姉と思って相談するように」


「そうですよ。私もあなたを本当の娘と思って接しますから。娘二人もいるのですから、もう一人増えたところで問題などありませんわ」


「奥様」


「お母様です。そうお呼びなさい」

「は、はい。……お母様」


「よろしい」


「私のことはお姉様と呼びなさい」

「はい! お姉様」


 ビオラはその光景をほほ笑ましく見ていた。


 アリアは、やっとヒラタ家の一員として居場所を見つけた感じになった。

 そして、アルフレッド王子への気持ちが尊敬からいとしさに変わっていったのだった。

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